Runaway Love
週末を使い、引っ越しの準備を始める。
やっぱり、一か月なんて、あっという間なのだ。
――ただ、中身がこんなに濃いものだとは思わなかったけれど。
あたしは、スーツケースを開けると、数冊、芦屋先生の本を片付けた。
もう、来週には引っ越しだから、読んでいる暇も無い。
明日は、掃除機を売りに行こう。
業者が清掃に入るんだから、そこまで頑張らなくても、ほどほどにキレイであれば生活できる。
予定を考えていると、スマホが振動する。
画面を見て、あたしは、一瞬、緊張で息をのんだ。
『茉奈さん、今、大丈夫ですか?』
「――ええ、実家に何かあった?」
すると、岡くんは、少々気まずそうに続けた。
『大丈夫――と言いたいところなんですが……ここ数日、また、茉奈さんが言ってた人が来てて……』
「奈津美は大丈夫?」
思わず口にしてしまったが、本心だ。
何よりも、今デリケートな状況の奈津美に、あんな男を近づけたくないのだ。
『ハイ。……ていうか、何か、茉奈さんの事ばかり聞いてくるって、奈津美が嫌な顔してて』
「え」
――……あたし?
『奈津美、面識があるんですよね。……でも、話を聞いている限り、嫌ってるような気がするんです』
「……え?」
岡くんは、あたしの動揺は気づかないのか、そのまま続けた。
『おばさんは、逆に茉奈さんに浮いた話が来たんだと思って、上機嫌で相手してるそうで』
「――……岡くん、母さんには、気づかれてない?」
『ハイ、その人が話すのは奈津美がほとんどで、いなかったりすると、おばさんに話しかけるような形だそうです』
あたしは、少しだけ考えをめぐらす。
このままなら、きっと、あたしが実家に行けば、先輩に会う事ができるはずだ。
「……そう、ありがとう。……来週には帰るから、それまで、お願い」
『ハイ。……あの、茉奈さん』
少しだけ遠慮がちな口調に、聞き返す。
「どうかした?」
『あ、あの……』
「――どうしたのよ、アンタらしくもない」
こっちが引くくらいにグイグイ来ていたクセに。
『……いえ、帰って来たら、デートしてください』
「……ま、まあ、それは……お礼ってコトでなら……。……でも、どこも出歩けないわよ?」
『おうちデートでいいですよ。オレ、また、ご飯つくりますから』
ヤバイ。誘惑に勝てないではないか。
「……じゃあ、ダイエットメニュー」
『え?』
「ちょっと、こっちでいろいろ美味しいもの食べちゃったから……いろいろとヤバイのよ。だから――」
すると、不意に耳元でクスクスと笑い声。
「……こっちは切実なんだけど」
『あ、すみません!……そのままでも、充分キレイですよ、茉奈さん』
その言葉に、一瞬固まる。
言われ慣れないセリフに、胸が不自然に鳴ってしまっている。
「……バカ」
『だから、可愛いだけですって』
「も、もう!アンタって……」
クスクスと笑いが止まらない岡くんは、穏やかな口調で続けた。
『――オレは、そのままのあなたを、愛してますから』
あたしは、耳元で囁かれた言葉に硬直し、思わずスマホを取り落としてしまった。
やっぱり、一か月なんて、あっという間なのだ。
――ただ、中身がこんなに濃いものだとは思わなかったけれど。
あたしは、スーツケースを開けると、数冊、芦屋先生の本を片付けた。
もう、来週には引っ越しだから、読んでいる暇も無い。
明日は、掃除機を売りに行こう。
業者が清掃に入るんだから、そこまで頑張らなくても、ほどほどにキレイであれば生活できる。
予定を考えていると、スマホが振動する。
画面を見て、あたしは、一瞬、緊張で息をのんだ。
『茉奈さん、今、大丈夫ですか?』
「――ええ、実家に何かあった?」
すると、岡くんは、少々気まずそうに続けた。
『大丈夫――と言いたいところなんですが……ここ数日、また、茉奈さんが言ってた人が来てて……』
「奈津美は大丈夫?」
思わず口にしてしまったが、本心だ。
何よりも、今デリケートな状況の奈津美に、あんな男を近づけたくないのだ。
『ハイ。……ていうか、何か、茉奈さんの事ばかり聞いてくるって、奈津美が嫌な顔してて』
「え」
――……あたし?
『奈津美、面識があるんですよね。……でも、話を聞いている限り、嫌ってるような気がするんです』
「……え?」
岡くんは、あたしの動揺は気づかないのか、そのまま続けた。
『おばさんは、逆に茉奈さんに浮いた話が来たんだと思って、上機嫌で相手してるそうで』
「――……岡くん、母さんには、気づかれてない?」
『ハイ、その人が話すのは奈津美がほとんどで、いなかったりすると、おばさんに話しかけるような形だそうです』
あたしは、少しだけ考えをめぐらす。
このままなら、きっと、あたしが実家に行けば、先輩に会う事ができるはずだ。
「……そう、ありがとう。……来週には帰るから、それまで、お願い」
『ハイ。……あの、茉奈さん』
少しだけ遠慮がちな口調に、聞き返す。
「どうかした?」
『あ、あの……』
「――どうしたのよ、アンタらしくもない」
こっちが引くくらいにグイグイ来ていたクセに。
『……いえ、帰って来たら、デートしてください』
「……ま、まあ、それは……お礼ってコトでなら……。……でも、どこも出歩けないわよ?」
『おうちデートでいいですよ。オレ、また、ご飯つくりますから』
ヤバイ。誘惑に勝てないではないか。
「……じゃあ、ダイエットメニュー」
『え?』
「ちょっと、こっちでいろいろ美味しいもの食べちゃったから……いろいろとヤバイのよ。だから――」
すると、不意に耳元でクスクスと笑い声。
「……こっちは切実なんだけど」
『あ、すみません!……そのままでも、充分キレイですよ、茉奈さん』
その言葉に、一瞬固まる。
言われ慣れないセリフに、胸が不自然に鳴ってしまっている。
「……バカ」
『だから、可愛いだけですって』
「も、もう!アンタって……」
クスクスと笑いが止まらない岡くんは、穏やかな口調で続けた。
『――オレは、そのままのあなたを、愛してますから』
あたしは、耳元で囁かれた言葉に硬直し、思わずスマホを取り落としてしまった。