Runaway Love

78

 ホテルにチェックインすれば、既に会社の名前で二部屋取っていたようで、二人で同じ階に案内された。
「……社長は何考えてんだ……」
「……同感……」
 マンションと同じく、隣合わせの部屋の前で、二人で苦る。
「……まあ、俺達以外に帰るヤツがいないからだろうけど……」
「……別の意図を感じてしまうのは、考え過ぎかしら」
「……奇遇だな。俺も同じコト考えてた」
 二人で顔を見合わせ、笑い合う。
「――しょうがないわね」
「――ああ、しょうがない」
 同じようにドアを開き、それぞれ中に入った。
 あたしは、そのままベッドに倒れ込み、目を閉じる。

 ――みんな、良い人達ばかりで、感傷的になってしまった。

 最終日の昨日には、早川と二人で小さい花束をもらってしまい、新人二人は涙目になってくれた。
 その花束は、写真を撮った後、プリザーブドフラワーができるお店に頼んで、加工してもらっている。
 出来次第、会社に送ってもらう予定だ。

 ――こんなつながりができるなんて、来る時には思ってもみなかった。

 あたしは、ゆっくりと起き上がると、バッグからスマホを取り出した。
 岡くんからの連絡は、ここ数日無くなっている。
 それは、先輩が姿を現していないせいか。
 何故か、彼がサボっているという頭にはならなかった。
 スマホを持つと、メッセージを送る。

 ――明日、帰るから。

 それだけ。
 ……それ以上は、何も書けなかった。

 岡くんは、バイトなのか大学なのか、返信は無く、あたしは奈津美や藤沢さんにも、帰る旨、メッセージを送った。
 二人のテンションは近くて、藤沢さんは、食事会の日程候補を送ってきてくれたほどだ。
 奈津美からは――先輩の話は出てこなかった。
 あたしに気を遣われたくないのか、ただ、嫌いだから口にしたくないだけなのか。
 けれど、帰ったら――今度こそ、決着をつけよう。

 ――その前に、辞表を書き直して――……。

 そう思った瞬間、スマホが振動した。
 画面を見れば、着信。

 ――野口くんだ。

「……もしもし」
『お疲れ様です。……今、新幹線ですか?』
「ううん、それは明日の早い時間のヤツ。今はマンション引き払って、ホテルに泊まってるの」
『――そうですか。……明日、何時くらいですか?迎えに行きますよ』
 あたしは、一瞬悩むが、首を振った。
「……ありがとう。……でも、正確な時間もわからないし……」
『オレが会いたいんですが?』
 少しだけ、拗ねたような口調。
 彼の表情は、まだ、まぶたの裏に焼き付いている。
『……茉奈さん?』
 あたしは、涙目になりそうなところをガマンして、無理矢理明るく言った。
「大丈夫よ。……それに、来週から、本社に戻るんだし。……ちゃんと会えるから……」
 その後は――わからないけれど。
 けれど、続きは口にできない。
 まだ、野口くんには、言えないのだから。
『――……茉奈さん、何かありました?……声が震えてますよ』
「――え」
 あたしは、思わずスマホから顔を離した。
『……オレには、言えませんか?』
「……そ、そんな事、無いけど……。気のせいよ……」
『茉奈さん』
 繰り返し呼ばれる名前に、胸が痛む。
「――……ごめん。今は何も言えないの……」
 あたしは、そう言って戸惑いを隠せない野口くんをなだめる。
『……じゃあ、茉奈さんが帰って来たら、話聞かせてください』
「――……ええ」
 それで納得してくれて、あたしは、大きく息を吐きながら通話を終えた。
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