Runaway Love
試着室から出てきたあたしは、思わず顔を伏せる。
――ああ、もう、アラサー女に、こんな派手で上等な服、似合う訳ないでしょうに。
心の中で毒づくが、言葉が口から出る事は無い。
無言が続き、耐え切れず顔を上げると、店員も早川も呆気にとられたような表情で、あたしを見ている。
――ホラ、見なさい。だから、嫌だって言ったのに!
「――……や、やっぱり、やめます!すみません!」
あたしが慌ててUターンしようとすると、腕が強く引かれた。
「――わ、悪い。……キレイすぎて、言葉が出なかった」
「――……は?」
振り返れば、真っ赤になった早川がバツが悪そうに言った。
あたしは、思わず眉をしかめる。
「お客様、とても、お似合いですよ」
にこやかに社交辞令を店員が口にする。
どこまでが本音かわからないそれに、あたしは苦笑いで返した。
「――茉奈、どうする?」
「……悪いけど、本当にいいわ。……落ち着かないし」
それに、値札を見たが、思った以上のそれにビクついてしまったのだ。
こんなの、普通に着ていられる自信は無い。
早川は苦笑いでうなづくと、店員に断りを入れ、あたしはその間に服を着替えた。
試着室から出ると、罪悪感でいっぱいになる。
せっかく選んでもらったのに。
でも――あたしには、似合わないのだ。
……こんな上等な服に、中身が伴わないのは、滑稽なだけだもの。
店をうつむきながら出ると、すぐに目の前に小さな紙袋が差し出された。
「……何」
「――まあ、受け取れ」
「何よ、それ」
押しつけらるように渡され、思わず両手で受け取る。
コイツは、こういう風にしか物を渡せないのか。
眉を寄せながら、のぞき込めば、ショップの店頭に飾られていたペンダントが透明な袋に入っていた。
「……ちょっ……早川!」
「良いだろ。一個くらい、あっても」
「でも」
視界に入ったそれは、やはり、まあまあの値段だった気がする。
「――じゃあ、指輪の方が良いのか?」
「……究極の選択を迫らないで」
あたしは、大きく息を吐くと、あきらめたようにうなづいた。
「……まさか、返品しろとも言えないし……。……今回だけだからね」
「ああ」
早川は、そう言って、あたしの頭を軽く叩いた。
結局、近間の洋食レストランで夕飯を取る事にした。
「ホントに良かったのかよ、服」
「……だから、アンタに買ってもらうつもりは無いって」
あたしは、苦りながらも、目の前でワインを口にしている早川を見やった。
「――まあ、それつけてるだけでも良しとするか」
そう言って、早川はあたしの首元に視線を向けた。
「……せ、せっかくだし……つけないと、アンタ、また何するか、わかったモンじゃないし」
言い訳のようになってしまうが、本心だ。
これ以上、もめたくはないし。
「人聞き悪ぃな。大したモンじゃねぇし、日常使いにしとけよ」
早川は、そう、何でもない事のように言う。
けれど、きっと、あたしが負担に思わないように、ケースも何もつけなかったんだろう。
「――……別に……もったいないから、つけてるだけよ」
「何だ、そりゃ」
ボソボソと言いながら、目の前の料理に手を付けるあたしに、早川は苦笑いだ。
「……うるさいわね」
そう返し、あたしは、パスタを口にし――そして、目線を下げた。
「茉奈?」
――……美味しいのは、間違いない。
滅多に食べられるものじゃないし、目でも楽しめるような上等な料理。
――なのに……何でなんだろう……。
――……無性に、あのコの作ったオムライスが食べたいと思ってしまった。
「茉奈、今日は大丈夫か?」
支払いを済ませた早川は、ドアの前で待っていたあたしをのぞき込む。
「……ちゃんとセーブしたわよ。明日、早いんだし」
「起きられるか?」
「起きるのよ」
そう言い返すと、笑ってうなづかれた。
「そりゃそうだ」
言いながら、早川はあたしの手を取る。
「ちょっ……早川?」
「――今日で、こんな風にできるのも最後だろ」
「え」
そして、指を絡め、力を込めた。
「……早川?」
「――……答え、出てるんだろ?」
瞬間、全身が硬直した。
――ああ、もう、アラサー女に、こんな派手で上等な服、似合う訳ないでしょうに。
心の中で毒づくが、言葉が口から出る事は無い。
無言が続き、耐え切れず顔を上げると、店員も早川も呆気にとられたような表情で、あたしを見ている。
――ホラ、見なさい。だから、嫌だって言ったのに!
「――……や、やっぱり、やめます!すみません!」
あたしが慌ててUターンしようとすると、腕が強く引かれた。
「――わ、悪い。……キレイすぎて、言葉が出なかった」
「――……は?」
振り返れば、真っ赤になった早川がバツが悪そうに言った。
あたしは、思わず眉をしかめる。
「お客様、とても、お似合いですよ」
にこやかに社交辞令を店員が口にする。
どこまでが本音かわからないそれに、あたしは苦笑いで返した。
「――茉奈、どうする?」
「……悪いけど、本当にいいわ。……落ち着かないし」
それに、値札を見たが、思った以上のそれにビクついてしまったのだ。
こんなの、普通に着ていられる自信は無い。
早川は苦笑いでうなづくと、店員に断りを入れ、あたしはその間に服を着替えた。
試着室から出ると、罪悪感でいっぱいになる。
せっかく選んでもらったのに。
でも――あたしには、似合わないのだ。
……こんな上等な服に、中身が伴わないのは、滑稽なだけだもの。
店をうつむきながら出ると、すぐに目の前に小さな紙袋が差し出された。
「……何」
「――まあ、受け取れ」
「何よ、それ」
押しつけらるように渡され、思わず両手で受け取る。
コイツは、こういう風にしか物を渡せないのか。
眉を寄せながら、のぞき込めば、ショップの店頭に飾られていたペンダントが透明な袋に入っていた。
「……ちょっ……早川!」
「良いだろ。一個くらい、あっても」
「でも」
視界に入ったそれは、やはり、まあまあの値段だった気がする。
「――じゃあ、指輪の方が良いのか?」
「……究極の選択を迫らないで」
あたしは、大きく息を吐くと、あきらめたようにうなづいた。
「……まさか、返品しろとも言えないし……。……今回だけだからね」
「ああ」
早川は、そう言って、あたしの頭を軽く叩いた。
結局、近間の洋食レストランで夕飯を取る事にした。
「ホントに良かったのかよ、服」
「……だから、アンタに買ってもらうつもりは無いって」
あたしは、苦りながらも、目の前でワインを口にしている早川を見やった。
「――まあ、それつけてるだけでも良しとするか」
そう言って、早川はあたしの首元に視線を向けた。
「……せ、せっかくだし……つけないと、アンタ、また何するか、わかったモンじゃないし」
言い訳のようになってしまうが、本心だ。
これ以上、もめたくはないし。
「人聞き悪ぃな。大したモンじゃねぇし、日常使いにしとけよ」
早川は、そう、何でもない事のように言う。
けれど、きっと、あたしが負担に思わないように、ケースも何もつけなかったんだろう。
「――……別に……もったいないから、つけてるだけよ」
「何だ、そりゃ」
ボソボソと言いながら、目の前の料理に手を付けるあたしに、早川は苦笑いだ。
「……うるさいわね」
そう返し、あたしは、パスタを口にし――そして、目線を下げた。
「茉奈?」
――……美味しいのは、間違いない。
滅多に食べられるものじゃないし、目でも楽しめるような上等な料理。
――なのに……何でなんだろう……。
――……無性に、あのコの作ったオムライスが食べたいと思ってしまった。
「茉奈、今日は大丈夫か?」
支払いを済ませた早川は、ドアの前で待っていたあたしをのぞき込む。
「……ちゃんとセーブしたわよ。明日、早いんだし」
「起きられるか?」
「起きるのよ」
そう言い返すと、笑ってうなづかれた。
「そりゃそうだ」
言いながら、早川はあたしの手を取る。
「ちょっ……早川?」
「――今日で、こんな風にできるのも最後だろ」
「え」
そして、指を絡め、力を込めた。
「……早川?」
「――……答え、出てるんだろ?」
瞬間、全身が硬直した。