Runaway Love
8
奈津美の勢いに負けたのか、珍しく、早川は疲れたように、あたしを見やった。
「……ホントに、お前の妹か……?」
「……どういう意味よ」
言われすぎた言葉に、神経はとがる。
つい、口調がキツくなるが、コイツには関係無い事。
あたしは、ため息をついて、立ち上がった。
早川は、座ったまま両手を後ろにつき、あたしを見上げる。
「……けど、何か、見たコトある気がするんだよなぁ……」
一瞬、下手なナンパ文句かと思ったが、奈津美はもう出て行った後だ。
少し考え、思い至る。
「そう言えば、アンタ、原島物産担当だったわよね?」
「え?あ、ああ。去年、昇進した先輩から引き継いだけど……」
そこまで言うと、気づいたのだろう。
驚いたように、あたしに言った。
「もしかして、受付やってる……?」
「ええ。狭き門を通り抜けたわよ」
原島物産の受付嬢は、歴代、美女コンテストで優勝するほどの美貌の持ち主しか受からない、とまで言われている。
数年に一度しか募集がかからず、お眼鏡にかなわなければ、その年は適任無しとされ、派遣を要請するくらいだ。
一体、何を基準に選んでいるのかと思う。
――まあ、ウチには関係無いけれどね。
そこまで考え、ふと、昨日からまれた受付のコを思い出し、心の中で苦る。
――……ああ、また、妙な事になってなきゃ良いんだけど……。
良くも悪くも目立つ早川の行動は、監視員がいるんじゃないかと思う程に、情報が一瞬で回るのだ。
昨日の事が、どこまで広まっているか、考えるだけでも怖い。
――コイツとは、そんな関係じゃないし――……絶対に、恋愛にはならない。
「おい、杉崎?大丈夫か?」
「え?」
そんな事を、ぼうっとした頭で考えていると、早川が心配そうにのぞき込んできた。
「熱、また上がったか?あ、薬、用意するか?」
早川は、そう言いながら立ち上がるので、あたしは慌てて制止する。
「だ、大丈夫だから。……ありがと。後は、一人で平気」
「――……そう、か」
渋々とうなづく早川は、投げてあった上着を羽織ると、あたしを見下ろす。
「じゃあ、俺、帰るけど――何かあったら、すぐに連絡しろよな」
「うん――……え?」
あたしは、うなづきかけて顔を上げる。
「アンタの連絡先なんて、入れてるワケ……」
「――あのなぁ……お前が新人の頃、会社の新年会の時、交換しただろうが。番号、変わってないからな」
そう言われ、スマホの電話帳を開くと、確かに入っていた。
――この五年、一回も使った事は無いが。
「杉崎も、番号変わって無いよな?」
「――ええ、まあ」
早川は、自分のスマホを確認し、苦笑いを浮かべた。
「――……お互い、一回も連絡した事無かったか」
「だって、連絡するより先に会うじゃない」
「……ったく……俺が合わせてたのも、気づかなかったのかよ」
「え?」
あたしがスマホから視線を上げると、早川は、耳元でささやく。
「ずっと、タイミング計ってたんだぞ。――少しでも一緒にいたかったから」
瞬間、体中が、ぞわりとする。
「はっ……早川っ!!」
あたしは、左耳を押さえ、早川をにらみつけた。
――何してんのよ、アンタは!
すると、早川は、子供のように破顔した。
「覚悟しとけ、って、言っただろ?」
「――……っ……!!!」
言葉を失うあたしに、楽しそうに言うと、早川は、また会社でな、と、部屋を後にした。
「……ホントに、お前の妹か……?」
「……どういう意味よ」
言われすぎた言葉に、神経はとがる。
つい、口調がキツくなるが、コイツには関係無い事。
あたしは、ため息をついて、立ち上がった。
早川は、座ったまま両手を後ろにつき、あたしを見上げる。
「……けど、何か、見たコトある気がするんだよなぁ……」
一瞬、下手なナンパ文句かと思ったが、奈津美はもう出て行った後だ。
少し考え、思い至る。
「そう言えば、アンタ、原島物産担当だったわよね?」
「え?あ、ああ。去年、昇進した先輩から引き継いだけど……」
そこまで言うと、気づいたのだろう。
驚いたように、あたしに言った。
「もしかして、受付やってる……?」
「ええ。狭き門を通り抜けたわよ」
原島物産の受付嬢は、歴代、美女コンテストで優勝するほどの美貌の持ち主しか受からない、とまで言われている。
数年に一度しか募集がかからず、お眼鏡にかなわなければ、その年は適任無しとされ、派遣を要請するくらいだ。
一体、何を基準に選んでいるのかと思う。
――まあ、ウチには関係無いけれどね。
そこまで考え、ふと、昨日からまれた受付のコを思い出し、心の中で苦る。
――……ああ、また、妙な事になってなきゃ良いんだけど……。
良くも悪くも目立つ早川の行動は、監視員がいるんじゃないかと思う程に、情報が一瞬で回るのだ。
昨日の事が、どこまで広まっているか、考えるだけでも怖い。
――コイツとは、そんな関係じゃないし――……絶対に、恋愛にはならない。
「おい、杉崎?大丈夫か?」
「え?」
そんな事を、ぼうっとした頭で考えていると、早川が心配そうにのぞき込んできた。
「熱、また上がったか?あ、薬、用意するか?」
早川は、そう言いながら立ち上がるので、あたしは慌てて制止する。
「だ、大丈夫だから。……ありがと。後は、一人で平気」
「――……そう、か」
渋々とうなづく早川は、投げてあった上着を羽織ると、あたしを見下ろす。
「じゃあ、俺、帰るけど――何かあったら、すぐに連絡しろよな」
「うん――……え?」
あたしは、うなづきかけて顔を上げる。
「アンタの連絡先なんて、入れてるワケ……」
「――あのなぁ……お前が新人の頃、会社の新年会の時、交換しただろうが。番号、変わってないからな」
そう言われ、スマホの電話帳を開くと、確かに入っていた。
――この五年、一回も使った事は無いが。
「杉崎も、番号変わって無いよな?」
「――ええ、まあ」
早川は、自分のスマホを確認し、苦笑いを浮かべた。
「――……お互い、一回も連絡した事無かったか」
「だって、連絡するより先に会うじゃない」
「……ったく……俺が合わせてたのも、気づかなかったのかよ」
「え?」
あたしがスマホから視線を上げると、早川は、耳元でささやく。
「ずっと、タイミング計ってたんだぞ。――少しでも一緒にいたかったから」
瞬間、体中が、ぞわりとする。
「はっ……早川っ!!」
あたしは、左耳を押さえ、早川をにらみつけた。
――何してんのよ、アンタは!
すると、早川は、子供のように破顔した。
「覚悟しとけ、って、言っただろ?」
「――……っ……!!!」
言葉を失うあたしに、楽しそうに言うと、早川は、また会社でな、と、部屋を後にした。