Runaway Love
今日は日曜日という事もあり、店は休みだ。
元々、近くの会社員がメインの客層だから、日曜日は、たいてい定休日になっている。
「おや、お帰り」
母さんは、この前の捻挫の名残なのか、少しだけ足をかばいながら、リビングから出てきた。
「――ただいま。……これ、お土産。みんなで食べて」
あたしは、そう言って、持っていた袋を一つ母さんに手渡した。
「そうかい、ありがとう。じゃあ、奈津美とテルくんも呼んで、今、食べようかね。アンタも食べるだろ?」
明らかにウキウキして、袋の中をのぞく母さんに、苦笑いで首を振る。
「いいわよ、あたし、行く所あるから」
「何だい、少しくらい良いじゃない」
「ごめん、急ぐから」
あたしは、そう言ってすぐに実家を後にする。
そして、近くのバス停から、駅行きのバスに乗る。
――向かう先は、岡くんの部屋だ。
アポ無しなので不在覚悟だったが、チャイムを鳴らせば、ガタガタと音がしたので、少しだけホッとした。
部屋の前で待っていると、ガチャリ、と、鍵が開く音。続いてドアが開けられ、顔をのぞかせた岡くんは、目を丸くしている。
「……ま、茉奈さん……?」
「……急に、悪いわね。……コレ、お土産」
「え、え?」
あたしは、持っていた袋を押し付けるように彼に渡す。
そして、少しだけ緊張しながら尋ねた。
「……実家の様子、聞いても良いかしら」
その言葉に、彼は表情を変える。
「……入ってください」
あたしは、うなづいて中に入った。
以前来た時と、ほとんど変わらない部屋。
その真ん中に置かれたテーブルに、お土産の袋を置く岡くんを見やった。
「――……先輩、あれからも、姿見せてるのかしら」
少しだけ緊張して尋ねる。
岡くんは、一瞬ためらうように視線をそらすが、うなづいた。
「……ハイ。……最近は、毎日のように、夜に来ているそうです」
「――そう」
思った以上に、執着されてしまったか。
だが、目の前の岡くんは、表情を曇らせたまま続けた。
「……それで……茉奈さんに告白されたって、言ってたそうです」
「――……え?」
あたしは、一瞬、硬直する。
すると、岡くんは眉を寄せて、あたしを引き寄せ抱きしめる。
「お、岡くん」
「――……ホント、なんですか?」
「え?」
「……茉奈さん、あの人の事が――」
あたしは、その瞬間、彼を突き飛ばすようにして離れた。
「――ふざけないで!!……誰が、あんな男っ……!」
目の前が、怒りで真っ赤になる。
何をどうしたら、そう――……。
そう思ったところで、気がついた。
あの時の事か。
「茉奈さん?」
「――……違うのよ……。……あたしが言ったのは――高校の時の話。……この前、大阪支社で偶然会って……たまたま……そういう話題になっただけで――」
まるで、浮気の言い訳のようだ。
だが、詳しい事を知らない岡くんに、これ以上は説明しようがない。
あたしは、視線を落とす。
「――……ごめん……なさい……。……信じて、としか言えない」
すると、岡くんは、そっと、あたしの頬を撫でた。
顔を上げれば、困ったように微笑む彼。
「――……すみません。……結構、ショックだったんで……連絡も返せなくて……」
「……ごめん……」
「謝らないでください。――それに、今の態度で、わかります。茉奈さん、反射でウソなんてつけないでしょう?」
そう言って、その見た目にそぐわない大きな手で、あたしの手を包み持ち上げ、手のひらに唇を当てる。
その感触に、思わず肩がすくむ。
彼は、何度も何度も、手に口づけていき、そっと離すと、あたしを見つめた。
――あ。
そして、捕らえられた、と、思った時には、唇が重なっていた。
元々、近くの会社員がメインの客層だから、日曜日は、たいてい定休日になっている。
「おや、お帰り」
母さんは、この前の捻挫の名残なのか、少しだけ足をかばいながら、リビングから出てきた。
「――ただいま。……これ、お土産。みんなで食べて」
あたしは、そう言って、持っていた袋を一つ母さんに手渡した。
「そうかい、ありがとう。じゃあ、奈津美とテルくんも呼んで、今、食べようかね。アンタも食べるだろ?」
明らかにウキウキして、袋の中をのぞく母さんに、苦笑いで首を振る。
「いいわよ、あたし、行く所あるから」
「何だい、少しくらい良いじゃない」
「ごめん、急ぐから」
あたしは、そう言ってすぐに実家を後にする。
そして、近くのバス停から、駅行きのバスに乗る。
――向かう先は、岡くんの部屋だ。
アポ無しなので不在覚悟だったが、チャイムを鳴らせば、ガタガタと音がしたので、少しだけホッとした。
部屋の前で待っていると、ガチャリ、と、鍵が開く音。続いてドアが開けられ、顔をのぞかせた岡くんは、目を丸くしている。
「……ま、茉奈さん……?」
「……急に、悪いわね。……コレ、お土産」
「え、え?」
あたしは、持っていた袋を押し付けるように彼に渡す。
そして、少しだけ緊張しながら尋ねた。
「……実家の様子、聞いても良いかしら」
その言葉に、彼は表情を変える。
「……入ってください」
あたしは、うなづいて中に入った。
以前来た時と、ほとんど変わらない部屋。
その真ん中に置かれたテーブルに、お土産の袋を置く岡くんを見やった。
「――……先輩、あれからも、姿見せてるのかしら」
少しだけ緊張して尋ねる。
岡くんは、一瞬ためらうように視線をそらすが、うなづいた。
「……ハイ。……最近は、毎日のように、夜に来ているそうです」
「――そう」
思った以上に、執着されてしまったか。
だが、目の前の岡くんは、表情を曇らせたまま続けた。
「……それで……茉奈さんに告白されたって、言ってたそうです」
「――……え?」
あたしは、一瞬、硬直する。
すると、岡くんは眉を寄せて、あたしを引き寄せ抱きしめる。
「お、岡くん」
「――……ホント、なんですか?」
「え?」
「……茉奈さん、あの人の事が――」
あたしは、その瞬間、彼を突き飛ばすようにして離れた。
「――ふざけないで!!……誰が、あんな男っ……!」
目の前が、怒りで真っ赤になる。
何をどうしたら、そう――……。
そう思ったところで、気がついた。
あの時の事か。
「茉奈さん?」
「――……違うのよ……。……あたしが言ったのは――高校の時の話。……この前、大阪支社で偶然会って……たまたま……そういう話題になっただけで――」
まるで、浮気の言い訳のようだ。
だが、詳しい事を知らない岡くんに、これ以上は説明しようがない。
あたしは、視線を落とす。
「――……ごめん……なさい……。……信じて、としか言えない」
すると、岡くんは、そっと、あたしの頬を撫でた。
顔を上げれば、困ったように微笑む彼。
「――……すみません。……結構、ショックだったんで……連絡も返せなくて……」
「……ごめん……」
「謝らないでください。――それに、今の態度で、わかります。茉奈さん、反射でウソなんてつけないでしょう?」
そう言って、その見た目にそぐわない大きな手で、あたしの手を包み持ち上げ、手のひらに唇を当てる。
その感触に、思わず肩がすくむ。
彼は、何度も何度も、手に口づけていき、そっと離すと、あたしを見つめた。
――あ。
そして、捕らえられた、と、思った時には、唇が重なっていた。