Runaway Love
夕方になり、母さんも奈津美も店に出る。
照行くんも、夕飯がてら、仕事を終えると毎日店にいるらしい。
それは、奈津美のボディガードも兼ねてという事だ。
やはり、妊婦とはいえ、奈津美の容姿は話題に上り、最近は初めての客も増えているという。
先輩の言葉は、本当だったようだ。
実家のインターフォンが鳴り響くと、あたしは、画面も見ずに玄関を開けた。
「茉奈さん」
岡くんが、神妙な表情であたしを見た。
「――わざわざ、ありがとう。……助かる」
すると、彼は中に入ると、すぐにあたしを抱き寄せた。
「ちょっ……」
「何で、すぐにドア開けるんですか!警戒してくださいよ!」
「え」
心配そうに言う岡くんを見上げ、あたしは、大阪にいた時、早川に言われた事を思い出した。
「……そっか。……不審者だったら、困るものね」
「そうですよ。……まったく、どうしてそう、警戒心が無いんですか、あなたは」
言葉は怒っているのに、抱きしめる腕は優しい。
あたしは、彼の胸に顔をうずめた。
「……茉奈さん?」
「……ごめん。……ちょっと、緊張してきた」
そう言って、おずおずと、彼の背に腕を回す。
こうやっていると――心が落ち着くのだ。
「ま、茉奈さん」
硬直した岡くんは、だが、すぐに、あたしを強く抱き締めた。
「――……オレがついてますから」
「……うん……」
言いながら、唇が触れ合う。
目を閉じると、更に敏感になり、入り込んできた彼の舌の熱さに、身体中が反応する。
「――……茉奈さん、愛してます」
それだけ言うと、岡くんは、そっとあたしを離す。
「――……あなたが何を抱えていても――何があっても、オレは、全部受け止めます」
「……岡くん……」
「――……だから、何も気にせず、あなたの思うようにしてください」
そう言って、彼は笑う。
その笑顔に、胸の奥が温かくなる。
――それが、どういう感情なのかは、今は考えない。
「……ありがとう……」
それだけ言うと、あたしは、玄関を出る。
――……まずは、目の前の問題を片付けるだけ。
その後の事は、それから考えよう。
あたしは、岡くんに家で待機してもらい、一人、店の裏口から入る。
もうすぐ開店時間だ。
母さんは、準備に忙しく、奈津美はゆっくりとテーブルを拭いていた。
「あら、アンタ、どうかしたの」
「え、ああ……ちょっと……」
言葉を濁すと、母さんはニヤニヤしてあたしを見やる。
「ああ、山本さん?今日は早いんじゃないかい?土日は休みみたいだからさ」
「……そ、そう」
ぎこちなくうなづくあたしは、チラリと奈津美を見やった。
すると、目が合い、困ったように首を振られる。
どうやら、母さんは、あたしの浮いた話がお気に召したらしい。
あたしは、奈津美のところまで行くと、声を抑えてで話す。
「……先輩が来たら、すぐに教えてちょうだい。――メッセージでいいから。スマホ、持ってるんでしょう」
「え、あ、うん。……わかった……」
それだけ頼み、家に戻る。
岡くんは、玄関の上がり框に腰を下ろしていたようで、あたしがドアを開けると、反射のように立ち上がった。
「茉奈さん」
「……岡くん、アンタには、距離を取って、あたし達の様子を見ていてもらいたいの。……それだけで良いから」
「……わかりました」
あたしの言葉に、彼は、ただうなづく。
近くの商業施設の駐車場なら、ある程度広さもあり、たむろしている若者も多いし、隅で話すくらいなら支障は無いはずだ。
そこに先輩を連れ出して、今度こそ、あたしと家族に近づかないようにさせるのだ。
場合によっては、その場で通報する。
「茉奈さん」
「え」
あたしが、頭の中でシミュレーションしていると、不意に、耳元で名前が呼ばれる。
岡くんは、そっとあたしを抱き寄せ、背中を軽く叩いた。
「――落ち着いてください。……きっと、大丈夫ですから」
詳しい事情を知らないはずなのに、何で、そんな事言えるのよ。
そうは思っていても、身体は――心は、安心感を覚える。
――そして、すぐに、スマホにメッセージが届いた。
照行くんも、夕飯がてら、仕事を終えると毎日店にいるらしい。
それは、奈津美のボディガードも兼ねてという事だ。
やはり、妊婦とはいえ、奈津美の容姿は話題に上り、最近は初めての客も増えているという。
先輩の言葉は、本当だったようだ。
実家のインターフォンが鳴り響くと、あたしは、画面も見ずに玄関を開けた。
「茉奈さん」
岡くんが、神妙な表情であたしを見た。
「――わざわざ、ありがとう。……助かる」
すると、彼は中に入ると、すぐにあたしを抱き寄せた。
「ちょっ……」
「何で、すぐにドア開けるんですか!警戒してくださいよ!」
「え」
心配そうに言う岡くんを見上げ、あたしは、大阪にいた時、早川に言われた事を思い出した。
「……そっか。……不審者だったら、困るものね」
「そうですよ。……まったく、どうしてそう、警戒心が無いんですか、あなたは」
言葉は怒っているのに、抱きしめる腕は優しい。
あたしは、彼の胸に顔をうずめた。
「……茉奈さん?」
「……ごめん。……ちょっと、緊張してきた」
そう言って、おずおずと、彼の背に腕を回す。
こうやっていると――心が落ち着くのだ。
「ま、茉奈さん」
硬直した岡くんは、だが、すぐに、あたしを強く抱き締めた。
「――……オレがついてますから」
「……うん……」
言いながら、唇が触れ合う。
目を閉じると、更に敏感になり、入り込んできた彼の舌の熱さに、身体中が反応する。
「――……茉奈さん、愛してます」
それだけ言うと、岡くんは、そっとあたしを離す。
「――……あなたが何を抱えていても――何があっても、オレは、全部受け止めます」
「……岡くん……」
「――……だから、何も気にせず、あなたの思うようにしてください」
そう言って、彼は笑う。
その笑顔に、胸の奥が温かくなる。
――それが、どういう感情なのかは、今は考えない。
「……ありがとう……」
それだけ言うと、あたしは、玄関を出る。
――……まずは、目の前の問題を片付けるだけ。
その後の事は、それから考えよう。
あたしは、岡くんに家で待機してもらい、一人、店の裏口から入る。
もうすぐ開店時間だ。
母さんは、準備に忙しく、奈津美はゆっくりとテーブルを拭いていた。
「あら、アンタ、どうかしたの」
「え、ああ……ちょっと……」
言葉を濁すと、母さんはニヤニヤしてあたしを見やる。
「ああ、山本さん?今日は早いんじゃないかい?土日は休みみたいだからさ」
「……そ、そう」
ぎこちなくうなづくあたしは、チラリと奈津美を見やった。
すると、目が合い、困ったように首を振られる。
どうやら、母さんは、あたしの浮いた話がお気に召したらしい。
あたしは、奈津美のところまで行くと、声を抑えてで話す。
「……先輩が来たら、すぐに教えてちょうだい。――メッセージでいいから。スマホ、持ってるんでしょう」
「え、あ、うん。……わかった……」
それだけ頼み、家に戻る。
岡くんは、玄関の上がり框に腰を下ろしていたようで、あたしがドアを開けると、反射のように立ち上がった。
「茉奈さん」
「……岡くん、アンタには、距離を取って、あたし達の様子を見ていてもらいたいの。……それだけで良いから」
「……わかりました」
あたしの言葉に、彼は、ただうなづく。
近くの商業施設の駐車場なら、ある程度広さもあり、たむろしている若者も多いし、隅で話すくらいなら支障は無いはずだ。
そこに先輩を連れ出して、今度こそ、あたしと家族に近づかないようにさせるのだ。
場合によっては、その場で通報する。
「茉奈さん」
「え」
あたしが、頭の中でシミュレーションしていると、不意に、耳元で名前が呼ばれる。
岡くんは、そっとあたしを抱き寄せ、背中を軽く叩いた。
「――落ち着いてください。……きっと、大丈夫ですから」
詳しい事情を知らないはずなのに、何で、そんな事言えるのよ。
そうは思っていても、身体は――心は、安心感を覚える。
――そして、すぐに、スマホにメッセージが届いた。