Runaway Love
――来たよ。
それだけ。
その一文で、一瞬で心臓が跳ね上がる。
あたしは、深呼吸すると、岡くんを見上げた。
「――……行くね」
「ハイ」
家を出て、店の表に回る。
扉を開けると、既にあたしも見覚えのある、数人の常連客の姿。
――その中に、先輩の姿もあった。
あたしは、震えそうな足を何とか動かし、中に入る。
「おや、アンタ、何で表から入って来るのよ」
「……別に良いでしょ」
キョトンとしながらも手を動かす母さんを横目に、あたしは、カウンターの端に陣取っていた先輩の元に向かった。
「――ああ、やっと来た。茉奈ちゃん」
名前で呼ばれ、全身が嫌悪感に包まれる。
ニッコリと笑い、あたしを呼ぶ先輩は、先日の事など、まったく頭に無いようだ。
「――……先輩、ちょっと出られますか」
「え?あ、うん。良いけど……」
先輩は、キョトンとしながらも、うなづき立ち上がる。
「母さん、先輩の注文、ひとまず保留にしておいて」
「あ、ああ、わかったよ……」
あたしの表情に何かを感じ取ったのか、母さんは戸惑いながらもうなづく。
それにうなづき返し、店を出ると、すぐ右手にスマホをいじりながら立っている岡くんが視界に入った。
「ねえ、一体、何なの?店で話しても良いんじゃないの?」
少々イラつきながら、先輩は、半歩先を歩くあたしをのぞき込む。
あたしは、無言のまま、足を進めた。
「……まったく、可愛くないなぁ」
彼がボソリとつぶやいた言葉に、すぐに胸の奥は反応する。
あたしは、キツく手を握りしめ、目の前の商業施設の駐車場に入って行く。
既に、駐車場に設置されたライトは、辺りを煌々と照らしていた。
そのまま進み、フェンスで仕切られたところでようやく足を止め、振り返った。
「――先輩、お願いですから、これ以上あたしや、会社、家族に執着するのはやめてください」
「……え?」
あたしの目の前の先輩は、何を言ったのかわからないような表情で、見返してくる。
「……あたしは、もう、あなたに会いたくは無いですし、店にも来てほしくありません」
「何で?オレがキミの実家の店に行くのは、オレの自由でしょ?」
「……それでも、これ以上、あたしの周囲をうろつくような真似をされたくないんです」
すると、先輩は喉を鳴らし、笑う。
「何だよ、それ。僕が、キミのストーカーみたいじゃない」
「――現状、同じようなものだと思いますが」
「ハハッ!イケメンに囲まれて、自意識過剰になっちゃった?」
そう言って、先輩は、あたしの腕を引いて抱き寄せる。
あたしは、一瞬で背筋が凍った。
「や、やめてください!」
そう言って、力任せに引きはがそうとするが、力を込められた腕から逃れられない。
先輩は、クスリ、と、笑い、低い声であたしの耳元で囁く。
「――キミみたいな、可愛げの無い、つまんない女、僕が相手してあげなきゃ誰がするって言うの?」
瞬間、胸の奥が貫かれた感覚。
――……ああ、この人は、もう、何を言っても伝わらないのか。
瞳から涙がこぼれ落ちる。
……あたしは、一体、どうしたら解放されるんだろう――。
「お姉ちゃんから離れなさいよ!このストーカー!!」
瞬間、辺りに響き渡った高い声。
そちらを見やれば――奈津美が、早足であたし達のところまでやって来た。
それだけ。
その一文で、一瞬で心臓が跳ね上がる。
あたしは、深呼吸すると、岡くんを見上げた。
「――……行くね」
「ハイ」
家を出て、店の表に回る。
扉を開けると、既にあたしも見覚えのある、数人の常連客の姿。
――その中に、先輩の姿もあった。
あたしは、震えそうな足を何とか動かし、中に入る。
「おや、アンタ、何で表から入って来るのよ」
「……別に良いでしょ」
キョトンとしながらも手を動かす母さんを横目に、あたしは、カウンターの端に陣取っていた先輩の元に向かった。
「――ああ、やっと来た。茉奈ちゃん」
名前で呼ばれ、全身が嫌悪感に包まれる。
ニッコリと笑い、あたしを呼ぶ先輩は、先日の事など、まったく頭に無いようだ。
「――……先輩、ちょっと出られますか」
「え?あ、うん。良いけど……」
先輩は、キョトンとしながらも、うなづき立ち上がる。
「母さん、先輩の注文、ひとまず保留にしておいて」
「あ、ああ、わかったよ……」
あたしの表情に何かを感じ取ったのか、母さんは戸惑いながらもうなづく。
それにうなづき返し、店を出ると、すぐ右手にスマホをいじりながら立っている岡くんが視界に入った。
「ねえ、一体、何なの?店で話しても良いんじゃないの?」
少々イラつきながら、先輩は、半歩先を歩くあたしをのぞき込む。
あたしは、無言のまま、足を進めた。
「……まったく、可愛くないなぁ」
彼がボソリとつぶやいた言葉に、すぐに胸の奥は反応する。
あたしは、キツく手を握りしめ、目の前の商業施設の駐車場に入って行く。
既に、駐車場に設置されたライトは、辺りを煌々と照らしていた。
そのまま進み、フェンスで仕切られたところでようやく足を止め、振り返った。
「――先輩、お願いですから、これ以上あたしや、会社、家族に執着するのはやめてください」
「……え?」
あたしの目の前の先輩は、何を言ったのかわからないような表情で、見返してくる。
「……あたしは、もう、あなたに会いたくは無いですし、店にも来てほしくありません」
「何で?オレがキミの実家の店に行くのは、オレの自由でしょ?」
「……それでも、これ以上、あたしの周囲をうろつくような真似をされたくないんです」
すると、先輩は喉を鳴らし、笑う。
「何だよ、それ。僕が、キミのストーカーみたいじゃない」
「――現状、同じようなものだと思いますが」
「ハハッ!イケメンに囲まれて、自意識過剰になっちゃった?」
そう言って、先輩は、あたしの腕を引いて抱き寄せる。
あたしは、一瞬で背筋が凍った。
「や、やめてください!」
そう言って、力任せに引きはがそうとするが、力を込められた腕から逃れられない。
先輩は、クスリ、と、笑い、低い声であたしの耳元で囁く。
「――キミみたいな、可愛げの無い、つまんない女、僕が相手してあげなきゃ誰がするって言うの?」
瞬間、胸の奥が貫かれた感覚。
――……ああ、この人は、もう、何を言っても伝わらないのか。
瞳から涙がこぼれ落ちる。
……あたしは、一体、どうしたら解放されるんだろう――。
「お姉ちゃんから離れなさいよ!このストーカー!!」
瞬間、辺りに響き渡った高い声。
そちらを見やれば――奈津美が、早足であたし達のところまでやって来た。