Runaway Love
――……は?
結婚式は――六月の終わりだった。
岡くんは、呆然としているあたしを、気まずそうに見やった。
「もう、決定で良いだろうって言われて――全部すっ飛ばされて書類もらったのが、その日で……」
「……随分、強引な人ね」
「まあ、豪快な人ですが、仕事は尊敬できますから」
苦笑いしながらも、彼はうつむき、続けた。
「……だから……ホントは……茉奈さんに一目会って――思い出ができたら、あきらめられるかと思って……それで……」
――『ずっと、会いたかったです――……茉奈さん』
不意に脳裏に浮かんだ言葉。
――……え?
そして、続けざまに――素肌の彼が目の前をよぎる。
それは、フィルターがかかったように、ハッキリとは見えないが、記憶は確かだ。
見上げれば、彼は、眉を寄せ、少しだけ辛そうに、あたしを見下ろしている。
『お姉さんも、こっち来て呑みましょうよー!』
結婚式の二次会。
一応、様子見がてら、顔を出すだけ出して、すぐに帰るつもりだった。
奈津美が、式の時に割と情緒不安定だったから、母さんが心配してあたしに頼んだのだ。
――まあ、今、思えば、妊娠していたからなのだろうが。
体調も大丈夫そうだし、友達の面々におかしな人間も見当たらない。
奈津美の交友関係――特に男性には、注意しておかないとなのだが、それも大丈夫そうだ。
あたしは、安心してその場を後にしようとし――そして、テンションの上がった奈津美の友人たちに捕まってしまった。
もう、既に数人は出来上がっていて、あたしは、知らない顔の並ぶ中、半ば無理矢理にグラスを渡され、勧められた。
さすがに、めでたい席に水を差すような真似はできない。
あたしは、あきらめて、差し出されるままに次々と呑んでいき……。
さすがに呑み過ぎたか。
壁側に置いてあったイスに座り込み、大きく息を吐く。
すると、恐る恐るといった風に、男性が隣に座った。
『――……大丈夫、ですか』
チラリと見やり、すぐにうつむく。
『……大丈夫……と……言いたい……ところ……だけど……。……ちょっと……調子に……乗った……かも……』
言いながら、また、深呼吸。
『気に……しないで……。……適当なところで……タクシー……呼ぶ……から……』
『……オレ、一緒についてますよ』
『……いらない……わ……。奈津美の……友達でしょう……?仲間のところに……戻ったら……?』
すると、そっと手を取られる。
『――あなたが心配なんです』
『……何……それ。……放っておいて……構わないわよ……』
ゆるゆると、その手を振り払い、あたしは言う。
『でも』
『……いいからっ……一人にしてよ……』
『できません』
あたしは顔を伏せたまま、首を振る。
もしかしたら、姉という事で、何かを期待しているのか。
『――……奈津美みたいな……可愛げのある……女じゃないのよ……。……ご期待に沿えなくて……悪いけど……』
『奈津美じゃありません。オレが心配なのは、あなたです。――茉奈さん』
『……え……?』
顔を上げる。
薄暗い照明の中、ぼんやりと浮かぶ、幼い印象の端正な顔。
『――……出ませんか。……二人きりになりたいです』
あたしは、その視線にとらわれ、ゆっくりとうなづく。
何で、そうしたのか――今ならわかる。
――こんなに、真っ直ぐに、あたしを見てくれたのは……彼が初めてだったから。
結婚式は――六月の終わりだった。
岡くんは、呆然としているあたしを、気まずそうに見やった。
「もう、決定で良いだろうって言われて――全部すっ飛ばされて書類もらったのが、その日で……」
「……随分、強引な人ね」
「まあ、豪快な人ですが、仕事は尊敬できますから」
苦笑いしながらも、彼はうつむき、続けた。
「……だから……ホントは……茉奈さんに一目会って――思い出ができたら、あきらめられるかと思って……それで……」
――『ずっと、会いたかったです――……茉奈さん』
不意に脳裏に浮かんだ言葉。
――……え?
そして、続けざまに――素肌の彼が目の前をよぎる。
それは、フィルターがかかったように、ハッキリとは見えないが、記憶は確かだ。
見上げれば、彼は、眉を寄せ、少しだけ辛そうに、あたしを見下ろしている。
『お姉さんも、こっち来て呑みましょうよー!』
結婚式の二次会。
一応、様子見がてら、顔を出すだけ出して、すぐに帰るつもりだった。
奈津美が、式の時に割と情緒不安定だったから、母さんが心配してあたしに頼んだのだ。
――まあ、今、思えば、妊娠していたからなのだろうが。
体調も大丈夫そうだし、友達の面々におかしな人間も見当たらない。
奈津美の交友関係――特に男性には、注意しておかないとなのだが、それも大丈夫そうだ。
あたしは、安心してその場を後にしようとし――そして、テンションの上がった奈津美の友人たちに捕まってしまった。
もう、既に数人は出来上がっていて、あたしは、知らない顔の並ぶ中、半ば無理矢理にグラスを渡され、勧められた。
さすがに、めでたい席に水を差すような真似はできない。
あたしは、あきらめて、差し出されるままに次々と呑んでいき……。
さすがに呑み過ぎたか。
壁側に置いてあったイスに座り込み、大きく息を吐く。
すると、恐る恐るといった風に、男性が隣に座った。
『――……大丈夫、ですか』
チラリと見やり、すぐにうつむく。
『……大丈夫……と……言いたい……ところ……だけど……。……ちょっと……調子に……乗った……かも……』
言いながら、また、深呼吸。
『気に……しないで……。……適当なところで……タクシー……呼ぶ……から……』
『……オレ、一緒についてますよ』
『……いらない……わ……。奈津美の……友達でしょう……?仲間のところに……戻ったら……?』
すると、そっと手を取られる。
『――あなたが心配なんです』
『……何……それ。……放っておいて……構わないわよ……』
ゆるゆると、その手を振り払い、あたしは言う。
『でも』
『……いいからっ……一人にしてよ……』
『できません』
あたしは顔を伏せたまま、首を振る。
もしかしたら、姉という事で、何かを期待しているのか。
『――……奈津美みたいな……可愛げのある……女じゃないのよ……。……ご期待に沿えなくて……悪いけど……』
『奈津美じゃありません。オレが心配なのは、あなたです。――茉奈さん』
『……え……?』
顔を上げる。
薄暗い照明の中、ぼんやりと浮かぶ、幼い印象の端正な顔。
『――……出ませんか。……二人きりになりたいです』
あたしは、その視線にとらわれ、ゆっくりとうなづく。
何で、そうしたのか――今ならわかる。
――こんなに、真っ直ぐに、あたしを見てくれたのは……彼が初めてだったから。