Runaway Love
あたしは、一瞬視線を落とす。
――コレは、乗って良いものなのだろうか。
サイン会は行きたい。
移動手段も、彼だったら、車に乗せてくれるだろうから、心配いらない。
でも――別れた人と、二人でとか……。
頭の中でグルグル回るのは、そんな事。
きっと、気にしすぎなのはわかってる。
でも――。
「それ、俺も行っていいか」
「「――……え?」」
二人で同時に声を上げ、振り返る。
すると、早川がスタスタと数歩で目の前に来た。
「え、早川?」
「――……早川補佐、わかるんですか?」
いぶかしげに、野口くんは早川に尋ねる。
ああ、そうか。
早川の趣味の事は、彼は知らないんだ。
「ああ。”アンラッキー”なら、全巻持ってる。――それに、本の事なら、杉崎とは何時間でも話せるぞ?」
暗に、あたしのレベルについて来れると、マウントを取っているように聞こえてしまうが、野口くんを見やれば、口元を上げて早川に視線を向けている。
「――そうですか。まあ、整理券一枚につき、三人まで有効なんで構いませんが……現地集合でどうですか」
「一緒に行かねぇのかよ」
「いえ、オレは、杉崎代理を乗せて行きますが」
「俺は近所だぞ?」
「生憎、オレの車、後部座席、狭いんですよ」
――ウソだ。
あたしは、顔をしかめる。
何だか、いつぞやの再来の気がする。
ピークを過ぎたとはいえ、まだ、社内にいる人間も結構な数のはずだ。
せっかく収まったウワサが再燃するのは避けたい。
「じ、じゃあ、レンタカー!……大きいヤツなら……早川でも後ろで乗れるじゃない。……それか、タクシー?」
あたしの必死の提案に、二人とも眉を寄せる。
「おい、杉崎」
「杉崎代理」
あたしは、ため息をついて返した。
「――……妙な事でバトル始めないでよ、二人とも」
そして、二人をにらみ上げる。
すると、彼らは視線をそらし、同時にため息をついた。
「――ハイハイ、わかった、わかった」
「……じゃあ、二人とも乗せて行きます」
渋々うなづく二人を見やり、あたしは、満足気にうなづく。
――何だかんだ言って、こんなイベントごとに参加するのも、こうやって人と行くのも初めてなのだ。
それが、芦屋先生のサイン会だなんて、気分は上がるに決まっている。
「じゃあ、それを目標に、年末乗り切りましょ!」
あたしは、そう言って、ロッカールームへ逃げるように駆け込んで行った。
夕飯でも、と誘ってきた早川に、やんわりと断りを入れ、送るという野口くんに、大丈夫と笑顔で返す。
そして、あたしは、一人アパートまでの道のりを歩き出した。
二人には悪いけれど――本当は、一緒にいる事自体、まだ罪悪感を覚えるのだ。
――それも、いつかは消えるのかもしれないけれど。
あたしは、無意識にスマホを取り出す。
メッセージは、何も来ていない。
部屋に入ると、すぐにヒーターをつけた。
雪はまだ降っていないけれど、そろそろなのか、冷えが厳しい。
年々、身体が堪えてくるのも、受け入れるしかない。
そうやって、年を取っていき――いずれ、あのコの事も、キレイな思い出になるのだろう。
そう思った途端、涙がこぼれ落ちる。
――……一体、いつまで引きずっている気。
あれから、岡くんからの連絡は一切無いのに。
当然だろう。あんな風に別れたのだ。
――きっと、もう、新しい生活への準備に忙しくしているはず。
そして――もし、奈津美の関係で会うのだとしたら、何事も無かったように、挨拶してくるんだろう。
そう思うのに、心はそれを嫌がる。
――自分で決めたはずなのに。
抗うように――彼に会いたがる自分がいるのだ。
――……こんな風になるなんて――思ってもみなかった。
――コレは、乗って良いものなのだろうか。
サイン会は行きたい。
移動手段も、彼だったら、車に乗せてくれるだろうから、心配いらない。
でも――別れた人と、二人でとか……。
頭の中でグルグル回るのは、そんな事。
きっと、気にしすぎなのはわかってる。
でも――。
「それ、俺も行っていいか」
「「――……え?」」
二人で同時に声を上げ、振り返る。
すると、早川がスタスタと数歩で目の前に来た。
「え、早川?」
「――……早川補佐、わかるんですか?」
いぶかしげに、野口くんは早川に尋ねる。
ああ、そうか。
早川の趣味の事は、彼は知らないんだ。
「ああ。”アンラッキー”なら、全巻持ってる。――それに、本の事なら、杉崎とは何時間でも話せるぞ?」
暗に、あたしのレベルについて来れると、マウントを取っているように聞こえてしまうが、野口くんを見やれば、口元を上げて早川に視線を向けている。
「――そうですか。まあ、整理券一枚につき、三人まで有効なんで構いませんが……現地集合でどうですか」
「一緒に行かねぇのかよ」
「いえ、オレは、杉崎代理を乗せて行きますが」
「俺は近所だぞ?」
「生憎、オレの車、後部座席、狭いんですよ」
――ウソだ。
あたしは、顔をしかめる。
何だか、いつぞやの再来の気がする。
ピークを過ぎたとはいえ、まだ、社内にいる人間も結構な数のはずだ。
せっかく収まったウワサが再燃するのは避けたい。
「じ、じゃあ、レンタカー!……大きいヤツなら……早川でも後ろで乗れるじゃない。……それか、タクシー?」
あたしの必死の提案に、二人とも眉を寄せる。
「おい、杉崎」
「杉崎代理」
あたしは、ため息をついて返した。
「――……妙な事でバトル始めないでよ、二人とも」
そして、二人をにらみ上げる。
すると、彼らは視線をそらし、同時にため息をついた。
「――ハイハイ、わかった、わかった」
「……じゃあ、二人とも乗せて行きます」
渋々うなづく二人を見やり、あたしは、満足気にうなづく。
――何だかんだ言って、こんなイベントごとに参加するのも、こうやって人と行くのも初めてなのだ。
それが、芦屋先生のサイン会だなんて、気分は上がるに決まっている。
「じゃあ、それを目標に、年末乗り切りましょ!」
あたしは、そう言って、ロッカールームへ逃げるように駆け込んで行った。
夕飯でも、と誘ってきた早川に、やんわりと断りを入れ、送るという野口くんに、大丈夫と笑顔で返す。
そして、あたしは、一人アパートまでの道のりを歩き出した。
二人には悪いけれど――本当は、一緒にいる事自体、まだ罪悪感を覚えるのだ。
――それも、いつかは消えるのかもしれないけれど。
あたしは、無意識にスマホを取り出す。
メッセージは、何も来ていない。
部屋に入ると、すぐにヒーターをつけた。
雪はまだ降っていないけれど、そろそろなのか、冷えが厳しい。
年々、身体が堪えてくるのも、受け入れるしかない。
そうやって、年を取っていき――いずれ、あのコの事も、キレイな思い出になるのだろう。
そう思った途端、涙がこぼれ落ちる。
――……一体、いつまで引きずっている気。
あれから、岡くんからの連絡は一切無いのに。
当然だろう。あんな風に別れたのだ。
――きっと、もう、新しい生活への準備に忙しくしているはず。
そして――もし、奈津美の関係で会うのだとしたら、何事も無かったように、挨拶してくるんだろう。
そう思うのに、心はそれを嫌がる。
――自分で決めたはずなのに。
抗うように――彼に会いたがる自分がいるのだ。
――……こんな風になるなんて――思ってもみなかった。