Runaway Love
「ま、茉奈さん……?」
「――何、ヘラヘラ報告してんのよ!」
「だ、だって、うれしくて……。……もう、会えないと思ってたから……」
「……会う機会だって、あったでしょう!……一度も帰省してない訳じゃ……」
あたしが顔を上げて言いかけると、岡くんは、気まずそうに視線をそらした。
「え」
「……してません。……今日が、就職してから、初めての帰省です」
「はあ?!何、親不孝なコトしてんのよ!」
言いながら、心の中で苦る。
あたしも、人のコトは言えないが。
今は話が別だ。
「……だって……帰って来たら、会いたくなるに決まってるじゃないですか。……あなたを困らせるのわかってて、できませんよ」
「どうして、そんなトコだけ気を遣うのよ、アンタは」
あたしは、岡くんの胸に顔をうずめる。
少し速い心臓の音。
それが、無性に懐かしくて。安心できて――。
「……すみません。……でも……」
「何よ」
「やっぱり、振られてるのに、顔合わせるの気まずいでしょう?」
あたしは、その言葉に苦笑いが浮かぶ。
「――あのね、あたし、今、早川とは同僚で友達だし、野口くんは部下で趣味仲間よ。二人と一緒に、図書館や本屋に行ったり、映画観に行ったりしてるんだけど?」
「……え」
岡くんは、勢いよくあたしを離し、眉を寄せた。
「な、何ですか、それ!早川さん、電話じゃそんなコト、一言も……」
「え?」
何でそこで、早川が――そう思い、先ほどのアイツを思い出す。
あの、気まずそうな表情は……あたしに気を遣ってではなく、嘘をついている罪悪感からか。
「……アイツ……」
怒りを抑え込もうと眉を寄せるあたしを、岡くんは、少しだけ困ったように見やる。
「えっと、オレが口止めしてたんです。……やっぱり、気まずいんで」
「ていうか、何で早川に教えるのよ」
あたしには黙ってるクセに。
そう思っていると、彼は眉を下げた。
「……牽制ですよ。……まさか、そんな風になってるなんて、思わないじゃないですか」
「――……別に、良いじゃないの。そういう関係も作れたって事よ。……まあ、こっちが予防線張らないとだけどね」
「いや、ていうか、二人とも、あきらめてませんよね!?茉奈さん、気づいてるでしょう!」
あたしは、口元を上げる。
「それでも――今、二人は、大事な存在だわ」
それは、恋愛とは別の感情。
明らかに――目の前の岡くんに対するそれと違うのは、わかるのだ。
「……ああ、もう……さっさと帰って来ればよかった……」
「何、言ってんのよ」
「でも」
ふてくされる岡くんを見やり、あたしは笑う。
そして、彼の頬を両手で引き寄せ、口づけた。
「――……え?」
「これで機嫌直しなさいな」
「……え??」
目を丸くする岡くんを見て、あたしは吹き出した。
「ちょっ……茉奈さん⁉」
慌てる彼に、笑いは止まらない。
「な、何笑ってんですか!今の、キ、キス……」
「今さら動揺しないでよ。……アンタ、あたしに、どれだけしてきたと思ってる訳」
「そ、それとこれとは……」
あたしは、そのまま岡くんの首に、しがみつくように抱き着いた。
――ああ、もう、止まらない。
五年間、抑え続けた感情は――枷が外れたように、飛び出した。
――もう、自分の気持ちから、逃げる事はできないのだ。
「ま……茉奈さん……?」
「アンタ、昔の、いつも何か企んでるような顔より、今の方が全然良いわよ」
「――……え」
「……あたし、こっちのアンタの方が、ずっと好きだわ」
「――……っ……!!」
あたしの言葉に、岡くんは言葉を失う。
その表情に、声を上げて笑った。
その反動で涙がこぼれ落ちていくが、そんなものは気にしない。
「茉奈さん――」
彼は、そっとあたしの頬を撫でると、涙を拭き取った。
「――……オレ、あなたのそばにいても、良いんですか……?」
恐る恐る聞いてくる彼に、あたしは笑いかける。
「……ええ。でも、まずは、あたしがアンタといて、幸せだと思わせてみなさいよ」
我ながら、偉そうな物言いだとは思うけれど。
「もちろんです……!」
岡くんは、そう言って笑い返すと――あたしに口づけた。
あたしの恋は――今、走り出したばかりだ。
―――――――Runaway Love
END
「――何、ヘラヘラ報告してんのよ!」
「だ、だって、うれしくて……。……もう、会えないと思ってたから……」
「……会う機会だって、あったでしょう!……一度も帰省してない訳じゃ……」
あたしが顔を上げて言いかけると、岡くんは、気まずそうに視線をそらした。
「え」
「……してません。……今日が、就職してから、初めての帰省です」
「はあ?!何、親不孝なコトしてんのよ!」
言いながら、心の中で苦る。
あたしも、人のコトは言えないが。
今は話が別だ。
「……だって……帰って来たら、会いたくなるに決まってるじゃないですか。……あなたを困らせるのわかってて、できませんよ」
「どうして、そんなトコだけ気を遣うのよ、アンタは」
あたしは、岡くんの胸に顔をうずめる。
少し速い心臓の音。
それが、無性に懐かしくて。安心できて――。
「……すみません。……でも……」
「何よ」
「やっぱり、振られてるのに、顔合わせるの気まずいでしょう?」
あたしは、その言葉に苦笑いが浮かぶ。
「――あのね、あたし、今、早川とは同僚で友達だし、野口くんは部下で趣味仲間よ。二人と一緒に、図書館や本屋に行ったり、映画観に行ったりしてるんだけど?」
「……え」
岡くんは、勢いよくあたしを離し、眉を寄せた。
「な、何ですか、それ!早川さん、電話じゃそんなコト、一言も……」
「え?」
何でそこで、早川が――そう思い、先ほどのアイツを思い出す。
あの、気まずそうな表情は……あたしに気を遣ってではなく、嘘をついている罪悪感からか。
「……アイツ……」
怒りを抑え込もうと眉を寄せるあたしを、岡くんは、少しだけ困ったように見やる。
「えっと、オレが口止めしてたんです。……やっぱり、気まずいんで」
「ていうか、何で早川に教えるのよ」
あたしには黙ってるクセに。
そう思っていると、彼は眉を下げた。
「……牽制ですよ。……まさか、そんな風になってるなんて、思わないじゃないですか」
「――……別に、良いじゃないの。そういう関係も作れたって事よ。……まあ、こっちが予防線張らないとだけどね」
「いや、ていうか、二人とも、あきらめてませんよね!?茉奈さん、気づいてるでしょう!」
あたしは、口元を上げる。
「それでも――今、二人は、大事な存在だわ」
それは、恋愛とは別の感情。
明らかに――目の前の岡くんに対するそれと違うのは、わかるのだ。
「……ああ、もう……さっさと帰って来ればよかった……」
「何、言ってんのよ」
「でも」
ふてくされる岡くんを見やり、あたしは笑う。
そして、彼の頬を両手で引き寄せ、口づけた。
「――……え?」
「これで機嫌直しなさいな」
「……え??」
目を丸くする岡くんを見て、あたしは吹き出した。
「ちょっ……茉奈さん⁉」
慌てる彼に、笑いは止まらない。
「な、何笑ってんですか!今の、キ、キス……」
「今さら動揺しないでよ。……アンタ、あたしに、どれだけしてきたと思ってる訳」
「そ、それとこれとは……」
あたしは、そのまま岡くんの首に、しがみつくように抱き着いた。
――ああ、もう、止まらない。
五年間、抑え続けた感情は――枷が外れたように、飛び出した。
――もう、自分の気持ちから、逃げる事はできないのだ。
「ま……茉奈さん……?」
「アンタ、昔の、いつも何か企んでるような顔より、今の方が全然良いわよ」
「――……え」
「……あたし、こっちのアンタの方が、ずっと好きだわ」
「――……っ……!!」
あたしの言葉に、岡くんは言葉を失う。
その表情に、声を上げて笑った。
その反動で涙がこぼれ落ちていくが、そんなものは気にしない。
「茉奈さん――」
彼は、そっとあたしの頬を撫でると、涙を拭き取った。
「――……オレ、あなたのそばにいても、良いんですか……?」
恐る恐る聞いてくる彼に、あたしは笑いかける。
「……ええ。でも、まずは、あたしがアンタといて、幸せだと思わせてみなさいよ」
我ながら、偉そうな物言いだとは思うけれど。
「もちろんです……!」
岡くんは、そう言って笑い返すと――あたしに口づけた。
あたしの恋は――今、走り出したばかりだ。
―――――――Runaway Love
END