Runaway Love
 どれだけ時間が経ったのか。
 ゆっくりと目を開ければ、辺りは既に真っ暗だった。
 ベッドサイドの時計を見やれば、もう、夜の七時だ。

「うっ……そ!」

 あたし、一回も起きずに、九時間以上も寝てたの……⁉

 飛び起きるように身体を起こせば、思った以上に軽く感じる。
 ――……あれ?熱、下がった?
 ゆっくりとベッドから下りると、自分で間仕切り代わりに付けたカーテンを開け、テーブルに置きっぱなしの体温計を持った。
 そして、熱を測れば、三十六度。平熱も平熱だ。

 ――良かった。

 ほう、と、息を吐いても、熱くはない。
 あたしは、充電しっぱなしだったスマホを手に取って、コンセントから外した。
 メッセージが何件か入っている。

 ――茉奈さん、具合、どうですか?落ち着いたら、返事くださいね。

 岡くんは、おまけに、心配、の、スタンプまでつけてきた。

 ――明日、会社休むようなら、事情話しておくから、連絡くれ。
 
 早川は、まるで業務連絡のよう。

 二人の性格が表れているようで、思わず苦笑いだ。
 だが、次に見た奈津美からの言葉に、スマホを握る手に力が入る。

 ――お姉ちゃん、将太に聞いたよ。明日、病院行くなら、テルに車出させるからね。

 どうして、そういう事言うの。

 照行くんまで巻き込まないで。
 奈津美の言葉の端々にイラつきを覚えてしまうのは、今さらだけど。
 ――岡くんと会ってから、急に奈津美があたしに構うようになった気がする。
 と、そこまで考え、眉を寄せた。

 ――ああ、そうか。
 あのコ、あたしと岡くんをくっつけようとしていたのか。

 ――自分ばかりが幸せみたいで、気まずいのだろうか。

 あたしは、スマホをそのまま放り投げた。

 ――バカみたい。別に、あたしは、アンタがどうしようと、今さらなんだから。
 せいぜい、幸せオーラを振りまいて、余計な男、シャットアウトしておいてよね。
 ……昔みたいなゴタゴタは、もう、ごめんなんだから。

 あたしは、ため息をつくと、テーブルに顔を伏せた。
 鳴り始めたお腹は、回復のしるしなんだろうけれど、今は放っておく。

 ――明日、気まずいな……。

 追い返した二人を思い、あたしは、自己嫌悪だ。
 あんな風にするつもりじゃなかったのに。
 あくまで、本人達が納得して、帰ってもらうつもりだったのに。
 そう思ったら、また、涙が浮かぶ。
 それを拭う気力も無く、そのまま流した。

 結局、どうにかシャワーを浴びて、寝る準備をすると、あたしは、スイッチが切れたように眠り込んだ。
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