Runaway Love
午後の仕事が始まるが否や、外山さんが、キラキラした表情であたしに突撃してきた。
「杉崎主任、聞きましたよ!何ですか、やっぱり、ラブラブじゃないですかぁ!」
「外山さん、仕事中」
冷静を装い突っ込むが、彼女は止まらなかった。
「野口さんも、意外とやりますねぇ」
「――何が言いたいの、外山さん」
デスクの向こう側から、不機嫌そうな声で返される。
「みんなのいる前で堂々とするとか!あたし、同期達と盛り上がっててー!」
「……バカにしてる、それ?」
「違いますー!逆に新鮮だったんですー!」
逆にって――あたし達には精一杯だったのに。
外山さんは、そんな気持ちにはお構いなしに続ける。
「今なんて、会って全部すっ飛ばして、すぐエッチしちゃうコなんて普通にいますし」
その言葉に、ビクリと肩を震わせてしまった。
――それは、あたしでは。
けれど、幸い、あたしのその反応に気づく人間はいなかったようだ。
「でも、あれ、受付の人から、主任守る為ですよね。みんな気づいてますよ。お二人が行った後、すぐに、あの人、逃げるように行っちゃいましたから」
含み笑いしながらの、外山さんの指摘に、野口くんは視線をそらす。
「照れないでくださいよー!ちゃんと、主任の事、大事に想ってるんだなって、同期と盛り上がってたんですからー!」
あたしは、思わず心の中で悶える。
――どうして、今のコって、そういうのあっさりと言えるのよ!
岡くんも、奈津美も、ストレートな方だ。
そう思ってしまう自分が、おばさんに思えて、地味にダメージを喰らった。
「外山さん、話をするなとは言わないけど、手は止めないで」
あたしがそう注意すると、外山さんは、ようやく我に返ったようだ。
「す、すみません。……何か、つい、うれしくなって」
「え」
あたしは、パソコンからチラリと視線を向けた。
「あたし、経理部のみなさん、大好きなんで。だから、その中で幸せになってくれる人たちがいるのが、うれしいんです」
「――そ、そう……」
「良い事言ってくれるのはありがたいが、請求書処理、止まってるぞ。さっさとさばかないと、後で苦しくなるからな」
「は、はい!」
大野さんが、書類を見ながら、そうクギを刺す。
ようやく落ち着いてくれたようで、それから、終業までその話題が出る事は無かった。
今日も一時間ほど残業だ。
部長が、先に事情を話してあたし達の残業申請をしていたので、人事からつつかれる事は無かった。
「そろそろ、今日は上がろうか」
部長が音頭を取り、ようやく終了だ。
外山さんは、急いで挨拶をすると、部屋から飛び出す。
「今日、同期会なんですよー!」
「ハイハイ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「はーい!」
まるで、もう一人妹ができたような感覚。
部長と大野さんは、これからの予定などの話があるそうで、一緒に夕飯に行くそうだ。
結局、今日も呼び出される事はなく、かえって怖くなったが、仕方ない。
わざわざ部長に尋ねる訳にもいかないし。
どうせ、辞表も出してる事だし、スルーされているのかも。
「――じゃあ、行きましょうか」
「あ、う、うん」
声をかけられ、あたしは、野口くんを見上げた。
残されたあたし達は、自然と一緒にエレベーターに乗る事になる。
「今日は、大丈夫ですか」
「え?」
あたしは、一階のボタンを押しながら言う野口くんを見た。
「――昨日の彼。……オレ、一応、送りましょうか」
「……ううん。――……そこまでバカなコじゃないと思うから……」
「そうですか。じゃあ、今日はお互いフリーで」
「そうね。あんまりベタベタするも、違和感があるわ」
すると、ポン、と、到着音が鳴り、ドアが開く。
当然のように、先に降ろされるのは、まだ慣れない。
「――じゃあ、お疲れ様です」
「うん、お疲れ様」
正面玄関を出て、野口くんは駐車場に向かおうとして、思い出したようにあたしを振り返って言った。
「――……やっぱり、楽ですね。……杉崎主任といると、必要以上に気を遣わないで済むんで」
それだけ言うと、頭を下げて、駐車場へ歩き出す。
あたしはそれを見送ると、正門へと向かった。
――それは、こっちのセリフよ。
友人でも、恋人でもない。
――”偽装の彼氏”。
なのに、そう思うのは――自分と同じ思いを持っているからなんだろう。
そんな事を思いながら、正門を出て右へと曲がる。
今日は、待ち伏せしてないわよね。
つい構えてしまうのは、早川の行動が変わらないから。
すると、バッグの中のスマホが震え、取り出すと岡くんからだった。
一瞬、取り落としそうになるが、また元の場所へ戻す。
何が書いてあるのか、確認するのは、怖い。
どうにか部屋にたどり着き、小刻みに震える手でドアの鍵を開け、すぐに中に入る。
カバンを投げて、すぐにスマホを取り出すと、メッセージを確認した。
――昨日は、突然すみませんでした。
――茉奈さんの事情はわからないけど、オレは、ずっと好きですから。
――落ち着いたら、連絡ください。
あたしは、その場にへたり込む。
――ああ、やっぱり。
たぶん、早川と同じ。会社の事情は知らなくても、何かあったのは気づくはずだ。
――あたし達の浅知恵に、乗った振りをしてくれる二人には、心の中で謝った。
「杉崎主任、聞きましたよ!何ですか、やっぱり、ラブラブじゃないですかぁ!」
「外山さん、仕事中」
冷静を装い突っ込むが、彼女は止まらなかった。
「野口さんも、意外とやりますねぇ」
「――何が言いたいの、外山さん」
デスクの向こう側から、不機嫌そうな声で返される。
「みんなのいる前で堂々とするとか!あたし、同期達と盛り上がっててー!」
「……バカにしてる、それ?」
「違いますー!逆に新鮮だったんですー!」
逆にって――あたし達には精一杯だったのに。
外山さんは、そんな気持ちにはお構いなしに続ける。
「今なんて、会って全部すっ飛ばして、すぐエッチしちゃうコなんて普通にいますし」
その言葉に、ビクリと肩を震わせてしまった。
――それは、あたしでは。
けれど、幸い、あたしのその反応に気づく人間はいなかったようだ。
「でも、あれ、受付の人から、主任守る為ですよね。みんな気づいてますよ。お二人が行った後、すぐに、あの人、逃げるように行っちゃいましたから」
含み笑いしながらの、外山さんの指摘に、野口くんは視線をそらす。
「照れないでくださいよー!ちゃんと、主任の事、大事に想ってるんだなって、同期と盛り上がってたんですからー!」
あたしは、思わず心の中で悶える。
――どうして、今のコって、そういうのあっさりと言えるのよ!
岡くんも、奈津美も、ストレートな方だ。
そう思ってしまう自分が、おばさんに思えて、地味にダメージを喰らった。
「外山さん、話をするなとは言わないけど、手は止めないで」
あたしがそう注意すると、外山さんは、ようやく我に返ったようだ。
「す、すみません。……何か、つい、うれしくなって」
「え」
あたしは、パソコンからチラリと視線を向けた。
「あたし、経理部のみなさん、大好きなんで。だから、その中で幸せになってくれる人たちがいるのが、うれしいんです」
「――そ、そう……」
「良い事言ってくれるのはありがたいが、請求書処理、止まってるぞ。さっさとさばかないと、後で苦しくなるからな」
「は、はい!」
大野さんが、書類を見ながら、そうクギを刺す。
ようやく落ち着いてくれたようで、それから、終業までその話題が出る事は無かった。
今日も一時間ほど残業だ。
部長が、先に事情を話してあたし達の残業申請をしていたので、人事からつつかれる事は無かった。
「そろそろ、今日は上がろうか」
部長が音頭を取り、ようやく終了だ。
外山さんは、急いで挨拶をすると、部屋から飛び出す。
「今日、同期会なんですよー!」
「ハイハイ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「はーい!」
まるで、もう一人妹ができたような感覚。
部長と大野さんは、これからの予定などの話があるそうで、一緒に夕飯に行くそうだ。
結局、今日も呼び出される事はなく、かえって怖くなったが、仕方ない。
わざわざ部長に尋ねる訳にもいかないし。
どうせ、辞表も出してる事だし、スルーされているのかも。
「――じゃあ、行きましょうか」
「あ、う、うん」
声をかけられ、あたしは、野口くんを見上げた。
残されたあたし達は、自然と一緒にエレベーターに乗る事になる。
「今日は、大丈夫ですか」
「え?」
あたしは、一階のボタンを押しながら言う野口くんを見た。
「――昨日の彼。……オレ、一応、送りましょうか」
「……ううん。――……そこまでバカなコじゃないと思うから……」
「そうですか。じゃあ、今日はお互いフリーで」
「そうね。あんまりベタベタするも、違和感があるわ」
すると、ポン、と、到着音が鳴り、ドアが開く。
当然のように、先に降ろされるのは、まだ慣れない。
「――じゃあ、お疲れ様です」
「うん、お疲れ様」
正面玄関を出て、野口くんは駐車場に向かおうとして、思い出したようにあたしを振り返って言った。
「――……やっぱり、楽ですね。……杉崎主任といると、必要以上に気を遣わないで済むんで」
それだけ言うと、頭を下げて、駐車場へ歩き出す。
あたしはそれを見送ると、正門へと向かった。
――それは、こっちのセリフよ。
友人でも、恋人でもない。
――”偽装の彼氏”。
なのに、そう思うのは――自分と同じ思いを持っているからなんだろう。
そんな事を思いながら、正門を出て右へと曲がる。
今日は、待ち伏せしてないわよね。
つい構えてしまうのは、早川の行動が変わらないから。
すると、バッグの中のスマホが震え、取り出すと岡くんからだった。
一瞬、取り落としそうになるが、また元の場所へ戻す。
何が書いてあるのか、確認するのは、怖い。
どうにか部屋にたどり着き、小刻みに震える手でドアの鍵を開け、すぐに中に入る。
カバンを投げて、すぐにスマホを取り出すと、メッセージを確認した。
――昨日は、突然すみませんでした。
――茉奈さんの事情はわからないけど、オレは、ずっと好きですから。
――落ち着いたら、連絡ください。
あたしは、その場にへたり込む。
――ああ、やっぱり。
たぶん、早川と同じ。会社の事情は知らなくても、何かあったのは気づくはずだ。
――あたし達の浅知恵に、乗った振りをしてくれる二人には、心の中で謝った。