Runaway Love
15
翌朝、早川の姿が無いのを確認し、アパートから歩き出す。
三十分早くてもつかまるのなら、四十五分だ。
どんどん出勤時間が早まってしまうが、文句は言っていられない。
とにかく、接点を減らさないと。
あたしは、そう決意し、足を進める。
さすがにこの時間帯で出勤している人は少なく、会社の正門あたりも、まだ静かだ。
ロビーに入り、しん、とした中、ロッカールームへ歩く。
――ああ、そう言えば、靴変えなきゃ。
よくよく考えたら、壊れた靴の代わりに、奈津美からもらった靴を履いていたのだ。
けれど、やっぱり、あたしには派手すぎる。
週末、少し足を延ばして、ショッピングモールでも行こうかしら。
あたしの靴は、たいてい、そこに入っている靴屋で買っている。
そこそこに値段の幅があるが、万単位のものは置いていない。
セールになれば、全品三割引きくらいにはなるので、いつも、そこを狙っていたのだが、今回はあきらめる。
そんな事を考えながら、エレベーターに乗ると、五階を押す。
すると、閉まりかけたドアが、手でふさがれた。
「――……おう……早いな、今日も」
「……は、早川……」
早川は、少々ドスの効いた声で、あたしに挨拶をする。
完全にドアが閉まり、エレベーターが動き出すが、あたしは視線をそらしたままだ。
「……完全に、逃げ回る気だな、お前」
「……何の事よ」
「――まあ、良いさ。こっちは、追いかけ続けるつもりだからな」
あたしは、その言葉に目を見開く。
思わず、早川を見上げると、あたしをニヤリと見下ろした。
「何だ、あきらめるとか思ったのかよ」
「――……普通、彼氏がいる時点であきらめるんじゃないの?」
「本当に彼氏なら、な」
含みを持たせる言い方に、イラつきを覚え、あたしは視線をそらした。
「――……自分の都合良いように、取ってるんじゃないわよ」
すると、ポン、と、エレベーターが止まり、ドアが開く。
見慣れた五階の景色が現れ、ホッとしてしまうが、よくよく考えたら、営業部は三階だ。
エレベーターを、一人で降りると、箱の中を振り返る。
閉まりかけたドアから、早川が微笑んでいるのだけが見えた。
経理部では、やはり一番乗りで、あたしはドアを解錠する。
二段階になっており、社員証と、合鍵で開くような仕組みだ。
一度開けると、次に鍵を閉めるまでは、出入りは自由。
合鍵は経理部全員が持っているが、マスターキーでは開かないようになっているのだ。
一応、セキュリティには気を遣っているらしい。
あたしは、部屋の中に入り、自分の席に着くと、イスに深く座り込んだ。
――まったく、どういう神経してんのよ。
思わず、心の中でボヤいてしまう。
一体、どうやったら、あきらめてくれるのよ。
「何がですか」
「え」
あたしは声のした方を振り返ると、後ろに野口くんが立っていた。
思わず、声に出ていたようで、あたしは何となくごまかしてしまう。
「――あ、お、おはよ。早いわね」
「杉崎主任の方が早いでしょう」
そう言って、野口くんは、自分の席に荷物を置くと、気まずそうに言った。
「――……あの、昨日は大丈夫でしたか」
「え?」
「……二人……何かありました?」
岡くんも、早川も、嘘には気づいている。
でも、それを野口くんに言うのは、逆にプレッシャーをかけてしまうかもしれない。
「――ううん、大丈夫。……何も無いわ」
「……なら、良いですが」
野口くんは、缶コーヒーを開け、口をつける。
「ああ、そうだ。杉崎主任、週末、何か予定ありますか」
「え?」
「――デート、します?」
「――え」
三十分早くてもつかまるのなら、四十五分だ。
どんどん出勤時間が早まってしまうが、文句は言っていられない。
とにかく、接点を減らさないと。
あたしは、そう決意し、足を進める。
さすがにこの時間帯で出勤している人は少なく、会社の正門あたりも、まだ静かだ。
ロビーに入り、しん、とした中、ロッカールームへ歩く。
――ああ、そう言えば、靴変えなきゃ。
よくよく考えたら、壊れた靴の代わりに、奈津美からもらった靴を履いていたのだ。
けれど、やっぱり、あたしには派手すぎる。
週末、少し足を延ばして、ショッピングモールでも行こうかしら。
あたしの靴は、たいてい、そこに入っている靴屋で買っている。
そこそこに値段の幅があるが、万単位のものは置いていない。
セールになれば、全品三割引きくらいにはなるので、いつも、そこを狙っていたのだが、今回はあきらめる。
そんな事を考えながら、エレベーターに乗ると、五階を押す。
すると、閉まりかけたドアが、手でふさがれた。
「――……おう……早いな、今日も」
「……は、早川……」
早川は、少々ドスの効いた声で、あたしに挨拶をする。
完全にドアが閉まり、エレベーターが動き出すが、あたしは視線をそらしたままだ。
「……完全に、逃げ回る気だな、お前」
「……何の事よ」
「――まあ、良いさ。こっちは、追いかけ続けるつもりだからな」
あたしは、その言葉に目を見開く。
思わず、早川を見上げると、あたしをニヤリと見下ろした。
「何だ、あきらめるとか思ったのかよ」
「――……普通、彼氏がいる時点であきらめるんじゃないの?」
「本当に彼氏なら、な」
含みを持たせる言い方に、イラつきを覚え、あたしは視線をそらした。
「――……自分の都合良いように、取ってるんじゃないわよ」
すると、ポン、と、エレベーターが止まり、ドアが開く。
見慣れた五階の景色が現れ、ホッとしてしまうが、よくよく考えたら、営業部は三階だ。
エレベーターを、一人で降りると、箱の中を振り返る。
閉まりかけたドアから、早川が微笑んでいるのだけが見えた。
経理部では、やはり一番乗りで、あたしはドアを解錠する。
二段階になっており、社員証と、合鍵で開くような仕組みだ。
一度開けると、次に鍵を閉めるまでは、出入りは自由。
合鍵は経理部全員が持っているが、マスターキーでは開かないようになっているのだ。
一応、セキュリティには気を遣っているらしい。
あたしは、部屋の中に入り、自分の席に着くと、イスに深く座り込んだ。
――まったく、どういう神経してんのよ。
思わず、心の中でボヤいてしまう。
一体、どうやったら、あきらめてくれるのよ。
「何がですか」
「え」
あたしは声のした方を振り返ると、後ろに野口くんが立っていた。
思わず、声に出ていたようで、あたしは何となくごまかしてしまう。
「――あ、お、おはよ。早いわね」
「杉崎主任の方が早いでしょう」
そう言って、野口くんは、自分の席に荷物を置くと、気まずそうに言った。
「――……あの、昨日は大丈夫でしたか」
「え?」
「……二人……何かありました?」
岡くんも、早川も、嘘には気づいている。
でも、それを野口くんに言うのは、逆にプレッシャーをかけてしまうかもしれない。
「――ううん、大丈夫。……何も無いわ」
「……なら、良いですが」
野口くんは、缶コーヒーを開け、口をつける。
「ああ、そうだ。杉崎主任、週末、何か予定ありますか」
「え?」
「――デート、します?」
「――え」