Runaway Love
――……しまった……。
あたしは、ショッピングモールの駐車場に降り立った時点で、後悔した。
車から降りて、平然と助手席のドアを開ける野口くんは、自分が注目されている事に、まったく気がついていない。
「茉奈さん、こっちの入り口の方からが近いですよね」
そう言って、さりげなく手を引く彼は、本当にコミュ障なのか、疑わしいくらいにスマートだ。
「野口くん――」
「名前で呼ばないんですか?」
「え、あ。か、駆……くん」
「何ですか?」
あたしを振り返り見下ろす野口くんは、少しだけ、何か吹っ切れたように笑う。
「――あの……手……」
「あ、すみません。――姉さん……ああ、上の姉の方に……デートだと口を割らされてしまって……いろいろ強引にアドバイスされたんで……」
あたしは、目を丸くして、赤くなった顔を背けた野口くんを見上げた。
――何だ。そういう事か。
急に積極的になったから、何が起きたかと思ったけれど。
お姉さんも、心配だったんだろうな。
「まあ、うん、そういう事なら……」
「それに、一応、他人から見て、デートに見えないとマズいかと思いまして……」
「それもそうよね」
目的は、交際しているという事実を認識してもらうため。
そのために、尋ねられても答えられるように、デートくらいしておかなきゃいけない。
「じゃあ、今日は頑張ってみるわ」
あたしが気合いを入れると、野口くんは吹き出した。
「――茉奈さん、気合い入りすぎじゃ……」
「え、何かマズい⁉不自然だった⁉」
「いえ、ただ……本当に、誰とも付き合った事ないんだな、って」
なぜか、うれしそうに言う野口くんを、あたしはにらむ。
「……バカにしてるよね」
「違いますって。オレも同じですから――あ、靴、何買うんです?」
手を、少しだけ強く引かれ、あたしは、よろめきながらも、どうにか後をついて行く。
思った以上に、コンパスの差があった。
すると、それに気づいたのか、野口くんは振り返ると、あたしに合わせて歩いてくれた。
「すみません……慣れてなくて」
「ううん、ありがと」
何だか、女性扱いされている事が、うれしいようで気まずいようで――あたしは、少しだけ視線を落とした。
靴屋に入ると、いつものような黒のパンプスを二、三種選び、履いてみる。
価格帯は大体一緒。
「こっちの方が、歩きやすいか」
試し履き用のイスに座り直し、選んだ靴を脱ぐ。
そのままチェックしていると、不意に、視界に野口くんの頭が入ってきた。
「――え」
周囲の女性客の視線も気にせず、彼はあたしの足に、脱いでいた今日の靴を履かせている。
「ちょっ……のっ……か、駆くん!」
「え?」
「何してっ……」
「それに決まったんですよね?なら、良いかなって……」
――いや、良いかな、じゃなくて!
まるで、シンデレラのように靴を履かされ、あたしは、たぶん首まで真っ赤だ。
硬直状態でされるがままになったが、満足そうに立ち上がった野口くんを見上げ、我に返る。
「あ、あり、がとっ……!あたし、買ってくる――……」
あたしは立ち上がると、置いていた商品を持って会計に向かおうとする。
だが、それは、一瞬で手元から消えた。
「買ってきます」
「え、いや、それは……」
「――お礼と思ってください」
「――え?」
――……お礼……?
あたしは、さっさと会計に向かった野口くんの後ろ姿を見送る。
――お礼をするのは、あたしの方なのに。
意味を計りかね、頭を悩ませているうちに、会計は終了した。
あたしは、ショッピングモールの駐車場に降り立った時点で、後悔した。
車から降りて、平然と助手席のドアを開ける野口くんは、自分が注目されている事に、まったく気がついていない。
「茉奈さん、こっちの入り口の方からが近いですよね」
そう言って、さりげなく手を引く彼は、本当にコミュ障なのか、疑わしいくらいにスマートだ。
「野口くん――」
「名前で呼ばないんですか?」
「え、あ。か、駆……くん」
「何ですか?」
あたしを振り返り見下ろす野口くんは、少しだけ、何か吹っ切れたように笑う。
「――あの……手……」
「あ、すみません。――姉さん……ああ、上の姉の方に……デートだと口を割らされてしまって……いろいろ強引にアドバイスされたんで……」
あたしは、目を丸くして、赤くなった顔を背けた野口くんを見上げた。
――何だ。そういう事か。
急に積極的になったから、何が起きたかと思ったけれど。
お姉さんも、心配だったんだろうな。
「まあ、うん、そういう事なら……」
「それに、一応、他人から見て、デートに見えないとマズいかと思いまして……」
「それもそうよね」
目的は、交際しているという事実を認識してもらうため。
そのために、尋ねられても答えられるように、デートくらいしておかなきゃいけない。
「じゃあ、今日は頑張ってみるわ」
あたしが気合いを入れると、野口くんは吹き出した。
「――茉奈さん、気合い入りすぎじゃ……」
「え、何かマズい⁉不自然だった⁉」
「いえ、ただ……本当に、誰とも付き合った事ないんだな、って」
なぜか、うれしそうに言う野口くんを、あたしはにらむ。
「……バカにしてるよね」
「違いますって。オレも同じですから――あ、靴、何買うんです?」
手を、少しだけ強く引かれ、あたしは、よろめきながらも、どうにか後をついて行く。
思った以上に、コンパスの差があった。
すると、それに気づいたのか、野口くんは振り返ると、あたしに合わせて歩いてくれた。
「すみません……慣れてなくて」
「ううん、ありがと」
何だか、女性扱いされている事が、うれしいようで気まずいようで――あたしは、少しだけ視線を落とした。
靴屋に入ると、いつものような黒のパンプスを二、三種選び、履いてみる。
価格帯は大体一緒。
「こっちの方が、歩きやすいか」
試し履き用のイスに座り直し、選んだ靴を脱ぐ。
そのままチェックしていると、不意に、視界に野口くんの頭が入ってきた。
「――え」
周囲の女性客の視線も気にせず、彼はあたしの足に、脱いでいた今日の靴を履かせている。
「ちょっ……のっ……か、駆くん!」
「え?」
「何してっ……」
「それに決まったんですよね?なら、良いかなって……」
――いや、良いかな、じゃなくて!
まるで、シンデレラのように靴を履かされ、あたしは、たぶん首まで真っ赤だ。
硬直状態でされるがままになったが、満足そうに立ち上がった野口くんを見上げ、我に返る。
「あ、あり、がとっ……!あたし、買ってくる――……」
あたしは立ち上がると、置いていた商品を持って会計に向かおうとする。
だが、それは、一瞬で手元から消えた。
「買ってきます」
「え、いや、それは……」
「――お礼と思ってください」
「――え?」
――……お礼……?
あたしは、さっさと会計に向かった野口くんの後ろ姿を見送る。
――お礼をするのは、あたしの方なのに。
意味を計りかね、頭を悩ませているうちに、会計は終了した。