Runaway Love
どれだけ経ったのか。
ようやく、半分に到達したあたりで、不意に肩に重みを感じ、あたしはそちらを見やる。
「……の、野口くん……?」
隣で、同じように読書していたはずの野口くんは、いつの間にか、眠ってしまっていた。
あたしの左肩を枕代わりに、寝息を立てている。
――やっぱり、キレイな顔してるわよねぇ……。
もったいないとは思うけれど、これが原因でコミュ障が悪化してしまったのなら、やっぱり、素直に喜べないのだろう。
少し眺めていると、地味に肩が痛くなってきてしまった。
あたしは、少し考え、そっと彼を自分の足に乗せる。
膝枕の方が、まだ、お互い楽だろう。
そして、再び、あたしは本の世界に入り込んだ。
「――……え?」
その声で、あたしはチラリと視線を下へ移す。
すると、目を丸くしてあたしを見上げている野口くんと、目が合った。
「ああ、何か、疲れてたみたいね。寝ちゃってたわよ」
「え、え。何で膝枕……」
慌てて起き上がる野口くんは、首まで真っ赤だ。
若干パニック状態だろう。
「最初は、あたしの肩にもたれてきたんだけどさ、ちょっと不自然な格好だったし、膝枕の方が楽かなって」
「す、すみません……。……自宅とはいえ、気が緩み過ぎですね……」
あたしは、苦笑いで首を振った。
「気にしないで。それに、気を許してくれてるって事じゃない。やっぱり、うれしいわよ?」
「――あ、ハ、ハイ……」
気まずそうに頭をかく野口くんは、あたしの手元に視線を向けた。
「……一冊、終わりました?」
「あ、うん。もうすぐ終わるわ。やっぱり、面白いわね」
「じゃあ、二、三冊、持って行きます?」
「え、良いの?」
「ハイ。オレ、今は別の方、読んでますから」
その言葉に甘え、あたしは、立ち上がると、本棚からシリーズ三冊を手に取った。
「ありがとう。意地でも来週までには読み終えるわ!」
「そんなに、急がなくても」
「気になってしょうがないのよ!」
何なら、帰ってすぐに読みたいくらいだ。
野口くんは微笑み、あたしも笑い返す。
――何か、こんなに穏やかな空気、初めてかも。
今までが今までだったから、男性と二人でいると、緊張感が大部分を占めてしまうけれど、野口くんは本当に楽だ。
そんな事を思っていると、バッグに入れていたスマホが振動する音がした。
「あ、ごめんなさい。ちょっと良い?」
「どうぞ」
野口くんに断り、あたしはスマホを取り出すと、思わず眉を寄せた。
――奈津美の名前が、そこには、あった。
少しだけためらいながらも、あたしは通話状態にする。
『あ、お姉ちゃん、今、家⁉』
何だか切羽詰まった声だが、何かあったんだろうか。
そんな事を思いながら、あたしは答える。
「出先よ。どうしたのよ」
『実家、すぐ来れる⁉』
「は?」
『お母さんが、ケガしたの!!』