Runaway Love
野口くんの家から、あたしの実家までは、車で二十分ほどだ。
――緊急なら、送りますよ。
その言葉に甘え、実家のそばまで送ってもらった。
「ありがとう、野口くん。助かったわ」
「いえ、じゃあ、また来週」
「ええ」
車が去って行くのを見送り、あたしは実家に駆け込んだ。
鍵は不用心にも開いたままだ。
「ただいま!奈津美、母さんのケガはっ……!」
あたしが玄関に入ると同時に叫ぶと、奥のリビングから母さんの声がした。
「何よ、奈津美ってば、茉奈まで呼んだの?」
けれど、一向に姿を現さない。
「母さん、ちょっと?」
「捻挫なのよ、結構しっかりやっちゃってねぇ」
「……はぁ⁉」
あたしは叫びながらリビングに飛び込むと、ソファに寝そべっている母さんが顔を上げた。
「ちょっと、階段踏み外してしちゃって、左足をグキッとさ」
「……何やってんのよ……」
病院の世話にならないつもりのようだが、それでは、万が一骨折でもしていたら困るのだ。
「休日診療で良いから、行ってきてよ。何かあったら、困るでしょうが」
あたしは、そう言ってリビングを出た。
「奈津美は」
「部屋じゃないのかい?」
返事を聞くと、あたしは階段を上り、二部屋ある奥の部屋のドアを開ける。
「ちょっと、奈津美!」
「あ、お姉ちゃん、お帰り」
「お帰りなさい、義姉さん」
目の前の床に座っていたのは、妹夫婦と――。
「――茉奈さん」
岡くんだった。
二人が気を利かせたのか、あたしは岡くんと二人で、奈津美の部屋に残された。
奈津美は、照行くんの車で母さんを乗せ、夜間休日診療に向かって行った。
「――……茉奈さん……」
あたしは、視線をそらしたまま、その場から立ち去ろうとする。
今、二人きりは、正直気まずい。
だが、それはあっさりと止められる。
強い力で引き寄せられ、あたしは、岡くんの胸に収まってしまった。
「ちょ……っ……」
「会いたかったです……!」
相変わらずのストレートな言葉に、心臓が跳ね上がる。
けれど、あたしは、それに気づかない。
――気づきたくないんだ。
「……離してよ」
あたしは、手で隙間を作ろうとするが、それすら、させてもらえない。
「嫌ですよ。せっかく会えたのに」
しれっと言うと、岡くんは、あたしの頬に口づける。
「お、岡くん!」
「――まだ、他の男が良いとか言います?」
「なっ……」
反論する隙も与えられず、唇がふさがれる。
ああ、もう!
何で、このコはすぐにこうやって――……!
どうにか抵抗しようとした両手は、しっかりと握られ、絡められていく舌に力が抜けてしまう。
息ができなくなりそうで、きつく目を閉じると、すぐに唇が離される。
けれど、呼吸ができたと思ったらすぐに、再びふさがれてしまった。
気が遠くなりかけた辺りで、ようやく解放され、あたしは床にへたり込んだ。
「……っ……岡っ……くんっ……!」
恨みがましくにらみ付けるが、彼は、含みのある笑顔を向けてきた。
「――また離れるつもりなら、離れられなくしてあげましょうか?」
「なっ……何言ってっ……」
思わず背筋が寒くなる。
――このコは、本気で言ってる。
笑っていても、目は真剣だ。
不意に体が宙に浮き、あたしは息をのむ。
「せっかく気を利かせてくれたんだから、有効に時間を使いましょうよ。茉奈さんの部屋、隣ですよね」
「え、え」
あっさりと奈津美の部屋を出ると、隣のあたしの部屋に移る。
そして、そのままになっていたベッドに放り投げるように、横にさせられた。
――あ、コレ、本気だ。
あたしのついた嘘は、岡くんにとっては、重大なものだったのだろう。
今までなら、すぐに切れたスイッチが、切れてくれない。
「ね、ねえ、岡くんっ……!」
「何ですか?」
岡くんは、あたしに覆い被さると、耳元で聞き返し、そのまま耳たぶを噛んだ。
「ひゃっ……ん……!」
思わず出てしまった声に、固まってしまう。
「可愛い」
「何してっ……」
あたしの抗議にかまわず、岡くんは続ける。
「――事情、話してくれないなら、続けますよ?」
「……っ……!」
究極の選択を迫られ――あたしは、あきらめて口を割った。
――緊急なら、送りますよ。
その言葉に甘え、実家のそばまで送ってもらった。
「ありがとう、野口くん。助かったわ」
「いえ、じゃあ、また来週」
「ええ」
車が去って行くのを見送り、あたしは実家に駆け込んだ。
鍵は不用心にも開いたままだ。
「ただいま!奈津美、母さんのケガはっ……!」
あたしが玄関に入ると同時に叫ぶと、奥のリビングから母さんの声がした。
「何よ、奈津美ってば、茉奈まで呼んだの?」
けれど、一向に姿を現さない。
「母さん、ちょっと?」
「捻挫なのよ、結構しっかりやっちゃってねぇ」
「……はぁ⁉」
あたしは叫びながらリビングに飛び込むと、ソファに寝そべっている母さんが顔を上げた。
「ちょっと、階段踏み外してしちゃって、左足をグキッとさ」
「……何やってんのよ……」
病院の世話にならないつもりのようだが、それでは、万が一骨折でもしていたら困るのだ。
「休日診療で良いから、行ってきてよ。何かあったら、困るでしょうが」
あたしは、そう言ってリビングを出た。
「奈津美は」
「部屋じゃないのかい?」
返事を聞くと、あたしは階段を上り、二部屋ある奥の部屋のドアを開ける。
「ちょっと、奈津美!」
「あ、お姉ちゃん、お帰り」
「お帰りなさい、義姉さん」
目の前の床に座っていたのは、妹夫婦と――。
「――茉奈さん」
岡くんだった。
二人が気を利かせたのか、あたしは岡くんと二人で、奈津美の部屋に残された。
奈津美は、照行くんの車で母さんを乗せ、夜間休日診療に向かって行った。
「――……茉奈さん……」
あたしは、視線をそらしたまま、その場から立ち去ろうとする。
今、二人きりは、正直気まずい。
だが、それはあっさりと止められる。
強い力で引き寄せられ、あたしは、岡くんの胸に収まってしまった。
「ちょ……っ……」
「会いたかったです……!」
相変わらずのストレートな言葉に、心臓が跳ね上がる。
けれど、あたしは、それに気づかない。
――気づきたくないんだ。
「……離してよ」
あたしは、手で隙間を作ろうとするが、それすら、させてもらえない。
「嫌ですよ。せっかく会えたのに」
しれっと言うと、岡くんは、あたしの頬に口づける。
「お、岡くん!」
「――まだ、他の男が良いとか言います?」
「なっ……」
反論する隙も与えられず、唇がふさがれる。
ああ、もう!
何で、このコはすぐにこうやって――……!
どうにか抵抗しようとした両手は、しっかりと握られ、絡められていく舌に力が抜けてしまう。
息ができなくなりそうで、きつく目を閉じると、すぐに唇が離される。
けれど、呼吸ができたと思ったらすぐに、再びふさがれてしまった。
気が遠くなりかけた辺りで、ようやく解放され、あたしは床にへたり込んだ。
「……っ……岡っ……くんっ……!」
恨みがましくにらみ付けるが、彼は、含みのある笑顔を向けてきた。
「――また離れるつもりなら、離れられなくしてあげましょうか?」
「なっ……何言ってっ……」
思わず背筋が寒くなる。
――このコは、本気で言ってる。
笑っていても、目は真剣だ。
不意に体が宙に浮き、あたしは息をのむ。
「せっかく気を利かせてくれたんだから、有効に時間を使いましょうよ。茉奈さんの部屋、隣ですよね」
「え、え」
あっさりと奈津美の部屋を出ると、隣のあたしの部屋に移る。
そして、そのままになっていたベッドに放り投げるように、横にさせられた。
――あ、コレ、本気だ。
あたしのついた嘘は、岡くんにとっては、重大なものだったのだろう。
今までなら、すぐに切れたスイッチが、切れてくれない。
「ね、ねえ、岡くんっ……!」
「何ですか?」
岡くんは、あたしに覆い被さると、耳元で聞き返し、そのまま耳たぶを噛んだ。
「ひゃっ……ん……!」
思わず出てしまった声に、固まってしまう。
「可愛い」
「何してっ……」
あたしの抗議にかまわず、岡くんは続ける。
「――事情、話してくれないなら、続けますよ?」
「……っ……!」
究極の選択を迫られ――あたしは、あきらめて口を割った。