Runaway Love
18
結局、母さんは左足の捻挫で全治一か月程との事だった。
年も年なので、店はしばらく休んだ方が良いだろう。
家族会議のようにリビングに全員集合して、そう結論づけようとした。
――だが。
「このくらい、大した事ないから、店は開けるわよ」
「……何言ってんのよ。マトモに歩けないクセに」
リビングのソファで横になりながら言い張る母さんは、若干、意地になっているようだ。
「常連さんだって、急に休みになったら困るでしょうが」
「いや、ちゃんと治してからの方が、お客さんだって安心するでしょ。歩けもしないで、どうするのよ」
「でもねぇ……」
あたしは、ソファの脇に立ったまま、母さんを見下ろして、ため息をついた。
「一か月ほど休業の張り紙しておくから、あきらめてよ」
「茉奈、ちょっと!アンタ、何勝手に……」
リビングから出て店に向かおうとするが、母さんは、あたしを止めようと起き上がる。
だが、向かいに座っていた奈津美に止められた。
「お母さん、まだ丸々一日、立っていられる訳ないでしょ。しばらくは様子見に来るからさ。早く治して、再開した方が、お客さんも喜ぶわよ」
「……そうは言っても……もう、次の分の食材も注文しちゃったし……」
母さんは、頬に手を当てて視線を下げる。
懇意にしている業者さんには、毎週一回、加工品や乾物など、翌週分を発注しているらしい。
小さな店なので、生鮮品は難しいにしても、他はまとめて入るようだ。
「キャンセルできないの」
「再来週分はともかく、月曜分からのものは、もう店に入ってるんだよ。いつもなら、今日片付ける予定だったの」
「あ、じゃあ、オレ、じいちゃんに聞いてみましょうか」
「岡くん」
不意に、隅で大人しくしていた岡くんが、口を開いた。
「そうね、将太、お願いできる?”けやき”で使ってるものとは違うだろうけど、ウチだって、ちゃんとしたもの使ってるんだからさ」
奈津美がそう言って、両手を合わせる。
そんな仕草でさえ、絵になるくらいなのだから、見せられる方は嫌になってくる。
あたしは、視線をそらすと、店の鍵を持ち、一人玄関へ向かった。
さっさと休業の張り紙を貼って、帰りたい。
――母さんには悪いけど、奈津美と一緒にいたくはなかった。
家を出ると、目の前に店の裏口だ。
あたしは、鍵を開けて中に入る。
すぐにつながる厨房を通り、反対側のレジ脇に置いてある筆記用具を探す。
マジックとA4の紙を見つけ、あたしは手書きで、できる限り大きく書いた。
――店主急病につき、一か月ほど休業いたします。
下手に諸事情とか書くと、詮索されかねない。
事実を出した方が、楽だろう。
あたしは、入り口のガラス扉に、紙をセロテープで止め、隣に貼ってあった臨時休業の紙を剥いだ。
元々、お客さんは近所の中小企業の従業員がメインだから、平日の方が混む。
夜の飲み屋は、実質、近所の人達のたまり場みたいになっているので、事情を聞かれたら話せば良いだけだ。
皆さんには悪いけれど、店はウチだけじゃない。
――そんな事を言うと、母さんはキレるので言わないけれど。
年も年なので、店はしばらく休んだ方が良いだろう。
家族会議のようにリビングに全員集合して、そう結論づけようとした。
――だが。
「このくらい、大した事ないから、店は開けるわよ」
「……何言ってんのよ。マトモに歩けないクセに」
リビングのソファで横になりながら言い張る母さんは、若干、意地になっているようだ。
「常連さんだって、急に休みになったら困るでしょうが」
「いや、ちゃんと治してからの方が、お客さんだって安心するでしょ。歩けもしないで、どうするのよ」
「でもねぇ……」
あたしは、ソファの脇に立ったまま、母さんを見下ろして、ため息をついた。
「一か月ほど休業の張り紙しておくから、あきらめてよ」
「茉奈、ちょっと!アンタ、何勝手に……」
リビングから出て店に向かおうとするが、母さんは、あたしを止めようと起き上がる。
だが、向かいに座っていた奈津美に止められた。
「お母さん、まだ丸々一日、立っていられる訳ないでしょ。しばらくは様子見に来るからさ。早く治して、再開した方が、お客さんも喜ぶわよ」
「……そうは言っても……もう、次の分の食材も注文しちゃったし……」
母さんは、頬に手を当てて視線を下げる。
懇意にしている業者さんには、毎週一回、加工品や乾物など、翌週分を発注しているらしい。
小さな店なので、生鮮品は難しいにしても、他はまとめて入るようだ。
「キャンセルできないの」
「再来週分はともかく、月曜分からのものは、もう店に入ってるんだよ。いつもなら、今日片付ける予定だったの」
「あ、じゃあ、オレ、じいちゃんに聞いてみましょうか」
「岡くん」
不意に、隅で大人しくしていた岡くんが、口を開いた。
「そうね、将太、お願いできる?”けやき”で使ってるものとは違うだろうけど、ウチだって、ちゃんとしたもの使ってるんだからさ」
奈津美がそう言って、両手を合わせる。
そんな仕草でさえ、絵になるくらいなのだから、見せられる方は嫌になってくる。
あたしは、視線をそらすと、店の鍵を持ち、一人玄関へ向かった。
さっさと休業の張り紙を貼って、帰りたい。
――母さんには悪いけど、奈津美と一緒にいたくはなかった。
家を出ると、目の前に店の裏口だ。
あたしは、鍵を開けて中に入る。
すぐにつながる厨房を通り、反対側のレジ脇に置いてある筆記用具を探す。
マジックとA4の紙を見つけ、あたしは手書きで、できる限り大きく書いた。
――店主急病につき、一か月ほど休業いたします。
下手に諸事情とか書くと、詮索されかねない。
事実を出した方が、楽だろう。
あたしは、入り口のガラス扉に、紙をセロテープで止め、隣に貼ってあった臨時休業の紙を剥いだ。
元々、お客さんは近所の中小企業の従業員がメインだから、平日の方が混む。
夜の飲み屋は、実質、近所の人達のたまり場みたいになっているので、事情を聞かれたら話せば良いだけだ。
皆さんには悪いけれど、店はウチだけじゃない。
――そんな事を言うと、母さんはキレるので言わないけれど。