Runaway Love
「――で、付き合ってるんですよね?早川主任と」

「ハッキリ言って、迷惑な誤解」

 昼休み、社員食堂で外山さんと朝の話の続きになり、あたしは速攻否定した。
 やっぱり、若いとそういう思考になるんだろうか。
 あたしは、お茶を飲み、今日の日替わり定食の、肉じゃがのじゃがいもを箸で割って口に運ぶ。
 昔よりも、好みは和食に傾いてきていて、自分では作りづらい煮物などは、よく社食を使う時に選んでいるのだ。
 まあ、実費はかかるので、使っても週に二回程だけど。
 外山さんは、遠慮がちにあたしを見やると、続けた。
「で、でも、もう社内じゃ公認ていうか」
「どこから発生したのよ、その誤解は」
「――……わかりません」
 あたしが不機嫌になりかけたのに気づいた外山さんは、シュンとしながら、オムライスの端をスプーンですくう。
「でも、私が新人研修の時、先輩たちからそう言われてたから……てっきり、そういう関係なんだと……」
 瞬間、あたしは、じゃがいもを胸に詰まらせかけ、すぐに、お茶に手を伸ばした。

 ――何だ、それは。研修で一体、何を教えたんだ、ウチの教育係は。

 外山さんには、罪は無い。

 ――そもそもの元凶は、早川なんだから。

「おい、もっと落ち着いて食えよ」

 すると、その元凶の声が頭上から降ってきて、あたしは顔を上げる。
 そして、思いっきり眉を寄せた。
 早川は、そんなあたしをスルーし、あっさりと隣に座る。
 ――失敗した。四人掛けに座るんじゃなかった。
「お疲れ様です、早川主任」
「お疲れ様。杉崎、迷惑かけてない?」
「――ちょっと、何よ、それ」
 早川は生姜焼き定食をテーブルに置き、にこやかに外山さんに言うが、あたしは立ち上がった。
「何だよ、まだ食い終わってないだろ」
「――場所、変わるだけよ」
「は?」
 そういうが遅い、あたしは、食べかけの肉じゃが定食が乗ったトレイを持ち、一人がけの窓側席に移った。
 外山さんは、オロオロしたようだけれど、早川が引き留めたらしく、追ってはこなかった。
 食堂は、ビルの最上階。
 眺めは会社の自慢の一つでもあり、そのために窓側にカウンター席が作られているほどだ。
 普通、最上階なんて、社長や、お偉いさんがいるようなとことなのに、ウチはそういうところでは無かったらしい。
 就職したてのあたしは、その時、驚きと感動を覚えたものだ。
 窓の外を見下ろせば、広い道路を、車がひっきりなしに行き交っている。
 日差しは既に夏のもので、反射した日光がまぶしいけれど、今はガマンするしかない。
 あたしは、再びトレイに乗った定食に手をつける。

 ――何が、迷惑、よ。

 あたしには、あんたの存在が迷惑なんだけど。
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