Runaway Love
エレベーターに乗ると、あたしは野口くんを見上げた。
「そうだ。――お昼、作ったんだけど……食べる?」
「はい――……え⁉」
目を丸くして、野口くんはあたしを見下ろす。
「え、いや、そんな……」
「ていうか、もうお弁当、二個持ってきちゃったのよ。まあ、いらなきゃ、あたしの夕飯に回すから気にしないで」
久し振りに朝の時間に余裕があったので、一応、作ってきたのだ。
まあ、自分と同じ物が入っているだけなので、そんなに気張った訳ではない。
野口くんは、しばらく固まったが、エレベーターが到着したと同時にうなづいた。
「――……ありがとうございます。……マジで嬉しいです」
「……そっか。まあ、あんまり期待しないでよ」
「え、でも、お昼作ってくれた時も、美味かったんで」
あたしは、苦笑いで、ありがと、と、返し、社食に入る。
瞬間、中にいた人間の視線が、すべてこちらに向いたように思え、思わずひるんでしまう。
けれど、すぐに口をキュッと結ぶ。
――こんなものに、負けてたまるか。
何のために、野口くんが、公衆の面前でキスまでしてくれたと思ってるの。
「茉奈さん、そっち、空いてます」
「あ、う、うん」
野口くんは、淡々とあたしの手を引くと、窓側の二人掛けに連れて行く。
ざわつく社食の中、何事も無かったような顔をして、野口くんは、あたしの作ったお弁当を食べ始めた。
「――ウワサはマジだったんだな」
「え?」
二人で、食べ終えたお弁当を片付けていると、不意に頭上から降ってきたセリフに顔を上げる。
「――早川」
「杉崎が、彼氏を改造してるってよ」
「は?」
どういう意味だ、それは。
早川は、野口くんを見やると、苦笑いを浮かべる。
「そっちの方が、断然良いんじゃねぇの、お前」
「――どうも」
淡々と返す野口くんは、視線を下げる。
――これは、ちょっと、マズい兆候じゃ……。
あたしは、急いでお弁当を持つと、立ち上がった。
「――行こう、野口くん」
「あ、はい」
「逃げるなよ」
「――終わったから、戻るだけよ。……アンタは、これからお昼なんでしょ」
それだけ言い捨て、後ろからついてきた野口くんを振り返る。
「――大丈夫?――《《駆くん》》」
念を押すように、あたしは、彼を名前で呼ぶ。
かすかにうなづき返したので、そのまま、ざわつく社食を後にした。
そして、エレベーターに逃げるように二人で駆け込むと、同時にため息を吐く。
「――……少しは、アピールできたかしら……」
「……帰ったら、SNSチェックしてみます」
あたしは、野口くんを見上げると、首を振った。
「いいわよ、必要以上に情報を入れない方が、自然に動けるわ」
「そうですか。……けど、早川主任、あきらめてないみたいですけど……」
「――いずれ、あきらめるでしょ。……あたしを相手にしたって、良い事なんて無いんだし」
「――何、言ってるんですか……」
あたしは、眉を寄せる野口くんを見上げ、苦笑いで返した。
自分で言ってて、情けなくなる。
ちょうど五階に到着したエレベーターのドアが開き、あたしは、視線を下げながら足を進めた。
――何をどうやったって、あたしは、奈津美みたいな女にはなれない。
――あたしが置いてきたものを、奈津美は全て拾って、生まれてきたとしか思えない。
可愛くてキレイな容姿も。愛想の良さも。
何があっても、自分を保てる強さも――。
――だから、あたしには、何も無い。
――……あたしを好きになったって……良い事なんて、何も無いんだ。
――……だから――……あたしは、誰もいらない。
「そうだ。――お昼、作ったんだけど……食べる?」
「はい――……え⁉」
目を丸くして、野口くんはあたしを見下ろす。
「え、いや、そんな……」
「ていうか、もうお弁当、二個持ってきちゃったのよ。まあ、いらなきゃ、あたしの夕飯に回すから気にしないで」
久し振りに朝の時間に余裕があったので、一応、作ってきたのだ。
まあ、自分と同じ物が入っているだけなので、そんなに気張った訳ではない。
野口くんは、しばらく固まったが、エレベーターが到着したと同時にうなづいた。
「――……ありがとうございます。……マジで嬉しいです」
「……そっか。まあ、あんまり期待しないでよ」
「え、でも、お昼作ってくれた時も、美味かったんで」
あたしは、苦笑いで、ありがと、と、返し、社食に入る。
瞬間、中にいた人間の視線が、すべてこちらに向いたように思え、思わずひるんでしまう。
けれど、すぐに口をキュッと結ぶ。
――こんなものに、負けてたまるか。
何のために、野口くんが、公衆の面前でキスまでしてくれたと思ってるの。
「茉奈さん、そっち、空いてます」
「あ、う、うん」
野口くんは、淡々とあたしの手を引くと、窓側の二人掛けに連れて行く。
ざわつく社食の中、何事も無かったような顔をして、野口くんは、あたしの作ったお弁当を食べ始めた。
「――ウワサはマジだったんだな」
「え?」
二人で、食べ終えたお弁当を片付けていると、不意に頭上から降ってきたセリフに顔を上げる。
「――早川」
「杉崎が、彼氏を改造してるってよ」
「は?」
どういう意味だ、それは。
早川は、野口くんを見やると、苦笑いを浮かべる。
「そっちの方が、断然良いんじゃねぇの、お前」
「――どうも」
淡々と返す野口くんは、視線を下げる。
――これは、ちょっと、マズい兆候じゃ……。
あたしは、急いでお弁当を持つと、立ち上がった。
「――行こう、野口くん」
「あ、はい」
「逃げるなよ」
「――終わったから、戻るだけよ。……アンタは、これからお昼なんでしょ」
それだけ言い捨て、後ろからついてきた野口くんを振り返る。
「――大丈夫?――《《駆くん》》」
念を押すように、あたしは、彼を名前で呼ぶ。
かすかにうなづき返したので、そのまま、ざわつく社食を後にした。
そして、エレベーターに逃げるように二人で駆け込むと、同時にため息を吐く。
「――……少しは、アピールできたかしら……」
「……帰ったら、SNSチェックしてみます」
あたしは、野口くんを見上げると、首を振った。
「いいわよ、必要以上に情報を入れない方が、自然に動けるわ」
「そうですか。……けど、早川主任、あきらめてないみたいですけど……」
「――いずれ、あきらめるでしょ。……あたしを相手にしたって、良い事なんて無いんだし」
「――何、言ってるんですか……」
あたしは、眉を寄せる野口くんを見上げ、苦笑いで返した。
自分で言ってて、情けなくなる。
ちょうど五階に到着したエレベーターのドアが開き、あたしは、視線を下げながら足を進めた。
――何をどうやったって、あたしは、奈津美みたいな女にはなれない。
――あたしが置いてきたものを、奈津美は全て拾って、生まれてきたとしか思えない。
可愛くてキレイな容姿も。愛想の良さも。
何があっても、自分を保てる強さも――。
――だから、あたしには、何も無い。
――……あたしを好きになったって……良い事なんて、何も無いんだ。
――……だから――……あたしは、誰もいらない。