幸先輩が甘く迫ってくるのですが。
「ふっ…うそうそ、冗談だよ」
慌てる私を横目に見ながら、可笑しそうにくすくす笑う幸先輩。
栗色の髪の毛が春風にサラサラと揺れ、それはさながら映画のワンシーンのように映る。
「冗談って…」
相も変わらずカッコイイ先輩の横顔を見つめながらボソリ。
気の抜けた言葉を聞いた途端、一気に脱力感が襲う。
…やっぱり幸先輩って、軽いよね。
こうして実際に話してみるとよくわかる。
変に反応しちゃう自分に呆れるよほんと…。
「そんなに嫌だった?俺と同棲するの」
少ししゅんとして口を開く幸先輩は、さっきとはまるで違う悲しげな表情で聞いてきた。
「えっ…?嫌、というか…」
急にそう聞かれると返答に困る。
だって、嫌とかそんなんじゃない。
むしろ────
「…というか?」
「〜っ、びっくりしただけです!!」
喉まで出かかった言葉をグッと飲み込み、代わりの当たり障りないものを返す。
すると、幸先輩の薄く形のいい唇が弧を描いた。
「それは、嫌われてないって思ってもいいってこと?」
効果音を付けるとしたら、“ニヤリ”。