幸先輩が甘く迫ってくるのですが。
だからそんな提案をしたんだけど、幸先輩も同じ考えに至ったんだろう。
互いの利害が初めて一致した瞬間だったね。
校内に入れば幸先輩と話すことも一切なくなるから、とりあえずトラブルは防げると思う。
女子の恨みは怖いって言うしね…くわばらくわばら…。
「それじゃあ私はお先に…」
そろそろ行こうと思って一声かけると、「待って」と呼び止められてしまった。
「なんですか?」
仕方なく振り向くと、幸先輩が制服からスマホを取り出しながら話し続けた。
「ひなみちゃんの連絡先教えて。ってゆーか交換しよ?」
「はい??」
連絡先…?なんでまたそんな…?
全く必要性を感じないんだけどな…。
「……だめ?」
「うっ…」
首をこてんと横に傾げる幸先輩が、一瞬ゴールデンレトリバーに見えたのは錯覚…?
目をうるうる潤ませて「だめ?」は卑怯すぎる。
「…いいですけど」
「ほんと?」
「っ…」
…もう、なんなの幸先輩。
そんなことで嬉しそうにしないでください。
私の連絡先なんて一円の価値もありませんよ…?
心臓がきゅっと締め付けられる感覚がしたけれど、それに気づかないフリをして。