幸先輩が甘く迫ってくるのですが。
うぅ…やっぱり中学からの付き合いがある怜美には、いつもバレちゃうんだよなぁ…。
「じゃ、教室戻ろ。付き合ってくれてありがとね」
微笑む怜美に私も「うんっ」と笑顔を返して、保健室前を通り教室へと向かう。
保健室前の廊下は、甘いムスクの香りが漂っていた。
*
「私はもう帰るけど、ひなみは用事あるんでしょ?」
午後の授業を乗り越え、掃除もSHRも終わった放課後。
帰りの支度を終えた怜美に話しかけられて頷く。
「今日、保健委員の仕事があったの忘れてて…」
これは咄嗟についた嘘…ではなく、実は本当のことで。
私が入っている委員会は保健委員会なんだけど、一ヶ月に何回か保健室当番をしなければならない。
部活で怪我をした人とかに簡単な手当をしたり、ベッドの使用を管理したりする。
それがちょうど今日だったのだ。
「じゃあ、私は帰るよ。頑張ってね」
「うん、ありがとー」
教室を出ていく怜美を見送り、私も支度を整え保健室に向かう。
はぁ…思い立ったが吉日っていうのに、なんでこういう日に限って仕事があるんだろ…。