幸先輩が甘く迫ってくるのですが。
「下の名前はひなみです。桜庭ひなみ」
ぺこりと頭を軽く下げ、改めて自己紹介。
「ひなみちゃんね、覚えた」
っ、急に下の名前で呼んでくるじゃん…!
幸先輩はいわゆるイケボというやつで、いきなりそんなふうに呼ばれたらドキッとしてしまう。
…うん?そういえば今、“覚えた”って言ってなかった?
「えっ…!?いや別に、覚えてもらうほどの者じゃ…!」
そこまで求めてないです…!という意味を込めて言ったのだけれど、やっぱり笑顔が返ってきた。
「ふっ…俺って王様かなにかなの?普通に覚えさせてよ」
「っ…は、はい…」
うー…こんなカッコイイ人からこんなこと言われるなんて、まるで少女漫画みたい。
い、いやいやいや…!何言ってるの私!
先輩は誰にだってこうだよ!
普段の幸先輩を知らないけど、きっとそう!
ダメだよひなみ、幸先輩は要注意人物なんだから…!
自分がヒロインになったような錯覚に陥って、変な考えをしてしまったことを反省する。
幸先輩がどんな人かを知りたかっただけで、まだ遊び人疑惑は晴れていない。
もしそうだとしたら早急に離れないと、手遅れになりそう。