りつとるね
さんざん弾いて、満足感と疲労感でクッタリしていると、律がボソッと言った。
「おまえ、ピアノ大好きだろ。だったら、逃げるな」

ギクッ。
そうだよ。実はピアノをライフワークにしたいっていう野心はあるよ。
でも、誰にも言ったことはなかった。

「自分の限界を知るのが怖いんだろ」
やだ、それ以上言わないで。

いつか弾けないほど難しい曲になったらどうしよう。自分には才能がないってわかっちゃったらどうしよう。
そんな恐怖が心の底にあって、いつも目をそらしてた。だから、あんまり練習しなくなった。
全力で練習して弾けなかったらショックだもん。
「練習不足だから……」って口実があれば、自分にガッカリしなくて済む。
「本気出せば、こんなもんじゃないよ」って逃げていられたから。

中2でレッスンを辞めたのは、先生に音大目指せって言われて、通いづらくなったから。
そんなに早く将来を決められなかったし、自分の一番好きなことで頂点を目指すのは苦しそうだと思った。
ピアニストになりたい人って世の中にごまんといるんだもの。

律に図星を指されて、私は何も答えられなかった。
「戦う前に逃げるな。カッコ悪いぞ」
そう言って律は、私の頭をポンと叩いた。
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