りつとるね
「……あっ、満月だね」
返事ができなくて話を逸らす。

レッスン室のフレンチウインドウから庭へ出ると、鈍い光が草木を照らしていた。ウッドベンチに座ると律も後からやってきた。
月から銀色のシャワーが降っている。律と二人で別世界に迷い込んだみたいだ。
今なら何でも話せる気がした。

「律は無口なのに、ピアノは雄弁だね。優しさもイライラもウキウキも、いろんな気持ちがわかるよ」
「そうか?」
「どうして話さなくなったの? 昔は普通にしゃべってたのに」

しばらくの沈黙の後、律がゆっくり口を開いた。
「中学に入った頃からずっと頭がもやもやしてる……」
「うん」
「考えがとっちらかってまとまらない……」
「うん」
「だから、不用意に喋って、取り返しのつかないこと言ったり、誰かを傷つけたりするのが怖い……」
「うん」
「いろいろ考えてると喋るの面倒になるし、伝えられないことにイライラもする……」
「ふーん、思春期の男の子ってそうなのかなぁ……」
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