りつとるね
すると、それまで頑として弾いてくれなかった律が、スッとピアノの前に座り、課題曲を弾き始めた。

実は、律も1組の伴奏者。毎年、優雅に弾きこなして、女子から「ピアノ王子」なんて騒がれてたりする。

――あれ? リハーサルのとき、律、こんな弾き方してたっけ?
なんてやわらかいタッチ。混じりけのない美しい音。
目をつむったら、夢のような世界に取り囲まれた。
律はどんな顔で弾いてるんだろう……。

目を開けるとポーカーフェイスの横顔だった。大した感情を映していないのに、なぜか優しさや憂いや切なさが切々と伝わってくる。
……きれいな律。ずっと近くで見てきたからわからなかったけど、品のある端正な顔立ちは貴公子みたい。

ボーッと見ていると、律がふとこちらを見た。
視線が力強く真っすぐで、ドキリとした。
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