卒業しても、また。
「こんにちは~」
校舎と教習コースの間に作られている待機場には沢山の挨拶が飛び交う。
指導員が来た生徒からどんどん居なくなっていった。
昼休み明けの5限目。
今日は初の伊崎先生の日。
少しだけ、ドキドキしていた…。
「どんな人かな」
チャイムが鳴り響き、遂に待機場から生徒が居なくなる。
それでも、先生は来ない。
私1人が待機場に残されていた。
「…あれ?」
もしかして私、予定間違えた?
スマホを取り出し教習予約を確認する。…間違いない、今日はこの時間。
辺りを見回しても人の気配すら感じない。
「………」
取り敢えず、ベンチに座ってみる。
おかしいな…伊崎先生、来ない。
かなりの不安を覚えつつ、スマホを弄って待つことにした。
「おーい!!」
チャイムが鳴っておよそ10分後、校舎の2階から叫ぶ声が聞こえて来た。
声の方向を向くと、窓から顔を出している人が視界に入る。
「待たせてごめんね! 今すぐ行く!」
そう言って勢いよく窓を閉めた。
「……あの人か」
遅刻の伊崎先生。
第一印象は最悪だった。
「本当にごめんね!!」
「……良いですよ、別に」
窓から覗いていたその人は、走って待機場まで来た。
肩で息をしながら両手を合わせて必死に私に謝っている。
ぱっと見、40代かな。
短めの茶髪でクッキリ二重が印象的な顔立ち。
黒色のカッターシャツに、黒色のスーツ上下。そして、凄く汗だく。
「チャイム鳴った?」
「かなり前になりましたよ」
タオルで汗を拭いながら教習名簿を開いている。
どれだけ拭っても、伊崎先生の汗は止まる気配がない。
「そっか、トレーニングしていたから全然聞こえなかった。本当、ごめんね」
「?」
トレーニング?
唐突なワードに理解が追い付かない。
自動車学校で…トレーニング…。
どういうこと?
「俺ね、格闘家なの」
「あ、そうなんですね…」
「闘う指導員だよ」
「へぇ…」
格闘家…。ならトレーニングしていても…おかしくない、のか?
「あっちー!! じゃあ、行こうか! まずは助手席に乗って!」
駐車場にポツンと残された「105」と書かれた教習車。
乗車前点検をして車に乗り込んだ。