卒業しても、また。

「今日はS字とクランクやるよ」
「はい」
「まずはお手本見せるから」

伊崎先生は手慣れた様子でS字に入って行く。
クルクルとハンドルを回し、あっという間に抜け出した。

「こんな感じ!」
「…はい」
「まぁやってみようか。交代しよう」



2人とも車を降りて運転席と助手席を入れ替わる。


まだ慣れないマニュアル。
私はそっと加速してS字に向かった。



「速度はいらないから。ゆっくり」

ゆっくり、ゆっくりと前へ進む。しかし、前輪が落ちてしまった。

「あ…」
「大丈夫、少しバックしてもう1回進んでみて。エンストしないからクラッチの加減は良いよ」

言われた通りに車を動かして、ゆっくりと進む。



そして無事にS字を抜けた。


「抜けた…」
「いい感じ。外周を走ろう」
「はい」

教習コースの外周を1周回った。

「いやぁ…あっちー。じゃあそこの青の4番のところ右折ね。もう1回S字行こう」
「はい」

速度を落としてそっとS字に入る。
次もゆっくりと慎重に進み…今度は車輪を落とさずに抜けることができた。

「おー、何かいきなり上達したね。もうコツ掴んだ?」
「さぁ…」
「良いよ。じゃあまた外周1周して、次はクランクねー」
「はい」


少しずつ加速していく。その途中でチラッと伊崎先生の方を見た。


「…ん-、髪長いなぁ」
「…!?」

伊崎先生はサイドミラーを覗き込みながら髪を直していた。




「しかし暑い。今日は一段と暑いよ」

助手席に座った伊崎先生は窓を全開にしてまだ汗を拭っている。




…2月だよ。暑いとは?

私なんかさっきまでコート羽織っていたけれど。



「神村さんはマニュアル取るんだね。最近の女子はオートマ限定が多いから珍しいよ」
「あぁ…どうせ取るならマニュアルを取れって、親に言われたので…」
「でもその方が良いよ。その分、頑張らないといけないけどね」


伊崎先生はカッターシャツを第一ボタンまで留めて、ポケットからネクタイを取り出した。

いや、ネクタイも黒かい!! しかもヒョウ柄!!



伊崎先生は、黒色のヒョウ柄ネクタイを手慣れた感じで結んだ。






何というか。
カッコイイというか、チャラい?



左手の人差し指には太めのリングを嵌めている。
そして汗だくなのに、隣からふわりと漂う甘い香り。香水かな。



何だか先生と呼ぶには程遠い人だ。
そう思った。







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