卒業しても、また。


その後、順調に第一段階も進み、仮免試験の予定が決まった。




仮免試験前最後の教習。

伊崎先生はニコニコと教習名簿を見ながら呟いた。


「大丈夫、自分は大丈夫だよ。ギアの切り替えとか上手だから。坂道発進も落ち着いてやれば絶対大丈夫。頑張ってきてね」



第一段階の欄にびっしりと埋まった伊崎先生の印鑑。


全15回のうち、11回が伊崎先生だ。


「よくここまで集めたよね。見たこと無いよ」
「えへへ…」


伊崎先生はそんな教習名簿を眺めたまま、微笑み続けていた。














仮免試験当日。
試験を一通り終えた私は…屍となっていた。




「…終わった」




待合室の角に座り、机に伏せる。

あーあ。終わった、終わった。






仮免試験、めちゃくちゃ緊張した。

そして、坂道発進に失敗して…後ろに下がってしまった。



あぁ終わった。もう終わりだ。
こんなの絶対合格しているわけがないよ。


そんな思いで合否発表を待つ。





「それでは、合否発表をします。お手元の番号が電光掲示板に表示されますのでご確認ください。合格者は受付に、不合格者は2階の講義室へ集まってください」


パッと番号が表示される。

「よっしゃ!!!」
「いえーい!」

番号が表示された人々が喜び舞い上がる。





私の番号は…やっぱり、無い。


「……はぁ…」




重い足取りで2階に向かう。
他の人は受付に向かっている。


もしかして、不合格私だけなのでは?





…頭が、痛い。






トボトボと階段を上っていると、上から伊崎先生が降りて来た。

伊崎先生は私の姿を見ると、悲しそうに声を上げた。



「あ、神村さん…。どうしたの…」
「伊崎先生…。すみません、あんなに教えてもらったのに。坂道発進で失敗してしまいました」
「あんなに上手だったのに…緊張したのかな?」
「そうかもしれません…」


申し訳なさすぎて、伊崎先生の顔を見られない。

先生は私と同じ段に立ち、肘で私の腕を突いた。



「大丈夫。絶対に大丈夫だから。次も頑張れよ」



そこで初めて伊崎先生の顔を見た。
優しそうな目に、心臓が飛び跳ねる。


「…ありがとうございます。が、頑張ります」
「おう」

私がガッツポーズをすると、微笑んで階段を降りて行った。

「…よし」



伊崎先生に会えて良かった
次こそ、次こそ頑張る。



そして、この時自覚した。







私、伊崎先生のことが好きだ。












その後。2回目の仮免試験は無事に合格できた。








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