卒業しても、また。


「おーい」
「ん? あ、はーい」


第二段階の1回目。
今回も伊崎先生の教習予約を取った。


「最初に車の点検をするから! こっち、こっち!」
「はーい。お願いします!」



いつもの待機場とは違う場所に連れて行かれる。


その場所は教習コースではなく、路上に面した駐車場だった。

いつもの「105」と書かれた教習車がそこに止まっている。



「…あ、そうだ。仮免合格、おめでとうございます」
「ふふ、ありがとうございます!! 頑張りましたよ!!」




伊崎先生の優しい言葉と笑顔に心臓が飛び跳ねる。





先生は、人気だから。
みんなにも同じ態度なのだと思う。


そう思うのに。
伊崎先生のことが好きという感情が溢れて苦しさを覚えた。







「第二段階からは路上教習になるんだけど。じゃー、質問。路上に出る為に必要な物は何? 3つあるよ」
「…え? えっと…?」


急な質問に頭が真っ白になった。

3つ?




…やばい、何も思いつかない。




「さぁ、なーんだ? 学科でやっているはずだよー」


考えろ…。
思い出せ…。



頭をフル回転させた結果、1つ思いついた。




「あ、あれ!! あの…擦ると煙が出るやつ!」
「ん?」
「あの、赤いやつ!」
「もしかして、発煙筒のこと?」
「それです!!」


キタコレ!!
絶対正解。そう思った。



しかし、伊崎先生の表情は正解では無さそう。



「…いや、え…発煙筒…? え、何? 擦りながら運転すんの?」
「違うんですか!?」
「違うよ~」



再度頭をフル回転させる。



…やばいなぁ。馬鹿だと思われてしまう。それが少し恥ずかしい。




「答えは見つかった? 発煙筒じゃないよ」
「えっと…本当に分からないんですけど…」



伊崎先生はフッと小さく笑って、教習名簿に挟んであったカードを取り出した。


「頑張って取った、これは何?」
「……あ! 仮運転免許証!!」
「あと、車の前後に?」
「仮免許練習中!」
「そう。あと、俺」
「…あ! 教習指導員、もしくは…」
「運転免許を取得して?」
「3年以上の人!」



そういうことか!!


いや、本当に馬鹿だな私。恥ずかし過ぎて穴に埋まりたい。というか無理、帰りたい。



「正解! よし、今3つ揃っているから行こうか!」
「どこにですか?」
「路上だよ!!」

あ、そうよね!!




多分だけど、伊崎先生のことを意識し過ぎて思考が停止している。





…ヤバいなぁ、客観的に自分を見ると引くくらいヤバい。







運転免許を取りに来ているのに。
これで良いのかと、冷静な自分が静かに問いかけていた。









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