降り積もる雪のように
いつも会う人
特に会話するでもなく、撮影に没頭した数十分。
それなりに撮れたんじゃないかと満足して、私は帰り支度をした。
「それでは、お先に失礼します。お邪魔しました」
「いえ、お疲れ様でした。お気をつけて」
帰り際、交わした言葉はたったそれだけ。
私はその場から離れたが、ただ一度だけ振り返った。その背中を見て、ふと思う。
次の休みもまた来てみようかな――。
私の瞼の裏には、まぶし気に細められた彼の切れ長の目が焼き付いていた。
その夜。
SNSを見ていたら、ヒロさんが写真をポストしていた。
私はどきっとした。今日見てきた景色と、とてもよく似ていたのだ。撮影地を知って納得し、嬉しくなった。
ヒロさんも、またこの場所に行ったんだ――。
彼の写真に「いいね」を送った。それから私も、今日撮った白鳥と湖の写真をポストする。
見てくれるかな――。
翌朝開いたSNSには、ヒロさんからの「いいね」があった。
それから翌週も、さらにはその翌週も、ほぼ毎週のように私は湖へ行った。
撮影ポイントは同じ場所だ。
そして毎回のようにその場所には、最初の日に会ったあの男性がいた。
その都度短く挨拶を交わしていただけだったのが、次第に会話が増えていった。
そんなある日、実は彼がフォロワーのヒロさんだということが判明した。きっかけはSNSに書かれていた一文だった。
『湖でお会いした方のものと思われる手袋を拾いました。私のフォロワーさんかは分かりませんが、もしも次に会えた時にお返ししますね』
「え?」
彼の写真の二枚目を見ると、見覚えのある手袋がおしゃれな雰囲気で映っていた。
今日も湖へ行き、家に帰りついてからずいぶんと探し回ったその手袋。拾ってくれたのがあの人で、それがヒロさんだったなんて――。
私は驚いて「いいね」をつけ忘れてしまった。