降り積もる雪のように
次の休日、長靴を履いた私は、誰かがつけた足跡をたどっていつもの撮影場所に着いた。
ヒロさんがいた。
彼は私が踏みしめた雪の音に気がついて、振り返った。
「こんにちは」
「こんにちは」
私は彼の近くまで行くと、頭を下げた。
「あ、あの。手袋、ありがとうございました」
改めて顔を上げると、彼は目を丸くして私を見ていた。しかし、すぐに嬉しそうに笑った。
「もしかして、と思ってたんですけど、やっぱりフォロワーさんでしたか。気づいてくれて良かったです」
彼はリュックの中から小さな袋を取り出した。
「これ、洗っていいか分からなくて、拾った時そのままなんです。あまり汚れてはいないみたいで。気づいた時にすぐに追いかければ良かったんですけど……すみません」
「いえいえ、そんなっ。拾っていただいて、本当にありがとうございました」
受け取った袋を私がバッグに仕舞い終えたのを見ると、彼はためらいがちな声で言った。
「あの、良かったら、アカウント名を聞いてもいいですか?」
私は少しだけどうしようか迷った。すでに何回か会って会話をしているわけだし、ちゃんとした人なのは見ていて分かる。本名を教えてと言われたわけではないし、私だけがヒロさんを知っているのも不公平な気もする。
私は答えた。
「リナです。改めてよろしくお願いします」
彼の顔にぱっと笑みが広がった。
「リナさんでしたか!いつも、写真見てくれてありがとうございます」
深々と頭を下げられて、私は慌てた。
「い、いえっ、私こそ、いつもヒロさんの素敵なお写真に癒していただいています」
今さらとなった自己紹介。それがなんだか可笑しく思えて、私は吹き出しそうになった。彼も似たような表情をしていた。
それまで互いの間にあった微妙な緊張感が、ふっと解けた。
「もっと早く名乗り合っていれば良かったよね。……あ、ため口でも大丈夫?俺、26なんだけど」
「そうすると、私の方が少し上なんだね」
苦笑する私に、彼は真面目な顔で言う。
「へぇ、そうは見えないね。むしろ俺より下に見えるかも」
社交辞令には思えない彼の言い方に、思わず胸がときめいてしまった。