お願い、成仏してください！ ～「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます～

「綺麗な人で、妊娠してたわ」
「嘘だよ」

「嘘で妊婦が来るわけないじゃない」
「本当に妊娠してたのかな」

「妊娠させておいて、最低！」
「違う、絶対に違う！」
　彼は声を荒げる。

「アパートなんだから静かにして！」
　私が言うと、彼はまたしょんぼりと肩を落とした。幽霊の声がほかの人に聞こえるかはわからなかったけど。

「どう証明していいかわからないが、誤解だ」
　彼はそう言う。

「私と別れ話をするつもりだったんでしょ？　御曹司だってことも隠されてて」
「君が気にすると思って。君とつきあいたかったから」

　確かに、御曹司だと知っていたら付き合わなかったかもしれない。世界が違いすぎて、気後れしてしまっただろう。
　今まで彼はそんなことを微塵も感じさせなかった。

「普通のサラリーマンに偽装するためにマンションまで借りたの？」
「……うん」
　私はため息をついた。

「実家に帰りなさいよ。そこで供養してもらって」
「嫌だよ。両親の悲しむ顔を見たくない」

「私ならいいの？」
　私はむっとして言った。私だって、愛しい人が死んだなんて言われたら悲し……いはずなんだけど。

「泣いてないじゃん」
「だって、目の前にいるんだもん。実感わかないわ」

「正直、俺も実感ないんだよね」
　照れたように彼が言う。
　こういう場合の反応じゃなくない？

「とにかく、早く家に帰りなさいよ」
「嫌だ。そばにいたい」

「梶尾さんだっけ、親友のところに行ったら？」
「人生の最期に男に会いになんて行くなんて嫌だよ。愛する人といたい」
　彼はそう言った。

　私は対処に困って、お茶を一口飲んだ。
　苦くて苦くて、ため息をついて残した。