お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
「こちらは謝罪としてご用意いたしました。受け取ってください」
 厚みのある封筒を差し出され、私は戸惑った。

「これって……」
「芝浦さんが示談金としてご用意されました。お受け取りいただけるならこちらの書類にサインをお願いします」
 弁護士がスーツケースから書類を取り出した。

 謝罪を受けたから彼女を許す、示談金として百万を受け取った、という内容が小難しく書かれていた。

 示談金だなんて、どうしよう。

 とっさにカズを見ると、彼は優しい微笑を私に向けた。
「受け取ったほうがいいいよ。そのほうが彼女の気が済むんだし」

 そうかもしれないけど、でも。

「これは受け取れません」
 私が言うと、彼女は顔を強張らせた。

「どうして!?」
 カズも驚く。

「どうしてでしょうか?」
 表情を変えずに北谷さんがきいてくる。

「これはお子さんのために使ってください。お金なんて貰わなくても、私は許します」
「でも……」
 女性はうろたえて北谷さんの顔を見る。

「こんな書類も必要ないです。心おきなく幸せになってください」
「……ありがとうございます」
 女性は涙を浮かべ、また頭を下げた。





 話を終えて、私は喫茶店を出た。
 肩から重い荷物が消えたかのように、体がふわふわした。

 近くの公園のベンチに座り、息をついて空を見上げる。

 深く垂れこめていた雲は徐々に薄くなり始めていて、太陽こそ隠れているものの、青空が見え始めていた。

「相変わらず紗智は優しいなあ。さすが俺の愛する女性だ。誤解も解けたし、良かった」
 カズは上機嫌で、にこにこと隣に座る。
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