お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 近くの芝生の広場では、子供たちがボールで遊んでいてにぎやかだった。母親たちは立ち話をしながらそれを見守っている。

「彼女、このまま結婚するって言ってたけど、大丈夫かな」
「嘘をついてでも彼女を手に入れたかった深い愛だとみるか、軽率な嘘をつくバカな男だとみるのか」

 前者と後者で、まるで見え方が違ってしまう。

「本人を見て来た彼女が信じて結婚するっていうんだから、それでいいんじゃない?」
「そうだね」
 私はため息をついた。

 結婚。
 その二文字はもう私には縁のないものになるんだろうな。

「ねえ、ちょっと移動しない?」
 彼が言う。

「移動ってどこへ?」
「海の見えるところとか、どっか景色のいいところ」
 デートしようっていうお誘いだろうか。だけど。

「疲れたから帰りたい」
「そっか……」
 彼はそわそわとみじろぎした。ふと見ると、ベンチから少し浮いている。

「どうかしたの?」
「えっと……さ」
 彼はもじもじしたあと、私の前にひざまずいた。

「なにしてるの?」
 彼は答えず、懐に手を入れて紺色のビロードのケースを取り出した。
 ふたをパカッとあけて私に見せる。

「結婚してください!」

 私は驚いてケースと彼を見た。
 ケースの中にはダイヤの裸石(ルース)があった。

 彼はうつむいていて、表情は見えない。

 幽霊と結婚って。
 婚姻届けは出せないし、結婚式も披露宴もできないし。

 そもそもこのケースは実在するのだろうか。
 そっと手を伸ばすと、触れることができた。ビロードの滑らかな手触りがした。

「これ……どうしたの?」
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