お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~





 いつまでそうしていただろうか。
 私はのろのろと立ち上がり、歩き出した。

 突然すぎて、心がついていかない。
 彼の浮気疑惑から、一週間とたっていない。

 ふと顔を上げると、神社があった。

 私は財布の中のありったけの現金を賽銭箱に入れた。最後に小銭入れをふってカラになったのを確認して、二礼二拍手でお参りをする。

「お願いです、彼を返してください!」
 その間にもまた涙があふれた。

 なんどもなんどもお願いした。
 彼がいたら、きっとなにかツッコミを入れて来ただろう。

 だけど、彼の声はまったく聞こえない。
 お願いに対しての返事も、どこからもなかった。





 部屋に帰っても、彼の姿はなかった。
 思わず部屋の隅々を確認した。

 トイレも浴室も、冷蔵庫の中もキッチンの収納扉の中まで見て見たけど、彼の姿はなかった。

 バッグに入れておいたダイヤのケースを取り出す。
 見ていられなくて、棚の奥に隠すようにしまった。





 翌日、また知らない番号から電話があった。
 北谷さんだろうか、と思って電話に出た。

「はい、相馬です」
「相馬紗智さんですか? イチズの友達……柚城一途の友人で、樫尾亘(かじおわたる)といいます」

 どきっとした。

「実はあいつ、事故に遭って……」
「知ってます」
 かぶせるように言った。詳しい話なんて聞きたくなかった。

「そうですか」
 彼はそれだけを答えて、ためらうように黙った。
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