お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 ごめん。急に体調が悪くなったから、今日は帰りたい。
 メッセージをそう返した。

 近いうちに……彼女が弁護士をよこすより前に、彼と話をしなくてはならない。

 だけどその前に、心を整理する時間がほしかった。

 ぽつぽつと雨が降り出した。

 私は折り畳み傘をバッグから取り出して差した。
 傘は小さくて、雨を完全に防ぐことはできなかった。

***

 彼との出会いはドラマチックでもなんでもない。

 その日、私は友達と高級ホテルのラウンジにいた。

 たまには奮発してアフタヌーンティーしようよ!
 友達の誘いに、二つ返事で乗っかった。

 食べ終えて、友達と笑い合いながらお会計に向かったときだった。

 どん、と誰かにぶつかられた。
 よろけた拍子に店員にぶつかって転び、彼女が持っていたアイスコーヒーを頭からかぶった。

「きゃあ!!」
「ごめん!」
 私の悲鳴と彼の謝罪が重なった。

「お客様、大丈夫ですか!?」
 店員がおろおろと言う。

「ごめん、俺が前を見てなかったから」
 謝る声の主を見て驚いた。

 イケメンだ、と見とれた。
 黒髪に優しい茶色の瞳をしていた。その目には心配の色が浮かんでいる。

「騒がせてごめんね。拭くものを持って来てもらえないかな」
 彼は優しく店員に話しかける。

「はい!」
 店員は慌てて歩いて行く。

「すぐに病院に行こう」
 彼はまた私に言った。

「え、あ、大丈夫です」
< 6 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop