お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
 私は慌てて立ち上がった。
「だけど、声も出ないくらい痛かったんじゃないか?」
「大丈夫です」
 言われて、私は顔を赤くした。まさか見とれてたなんて言えない。

「服が汚れてしまったね。弁償させてほしい」
「そんなの、いいです」

「弁償してもらいなよ」
 にやにやしながら友達が言う。

「あ、ここはおごりですよね」
 とんでもない便乗の仕方をしてきた、と唖然と彼女を見る。

「もちろん、出させてもらうよ」
「じゃ、あとは彼女のことよろしくお願いします」
「なに言ってるの!」

 彼女は私の耳に手を当てて囁いた。
「イケメンだよ、チャンスじゃん」
「はあ!?」

「じゃ、私はこれで」
 にやにやと笑いながら去る彼女に、彼もまた戸惑った。

「俺のせいで、お友達は怒っちゃった?」
「そういうんじゃないから大丈夫です」

 それをきっかけに私たちは連絡先を交換し、付き合うことになったのだった。

***

 私はうんざりとため息を吐いた。
 あのとき、おごってもらって、終わりにすればよかった。

 アパートに着くと、玄関のカギをあけてから傘の水滴を払った。足元はすっかり濡れていて、早くお風呂に入りたかった。
肩を落として自宅の玄関扉を開けると、見知った足元が見えた。

 え?
 私は驚いて顔を上げる。
 そこには、愛しい人がいた。

「カズ、なんでここに?」
 合鍵は渡していないのに。
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