お願い、成仏してください! ~「死んでも君を愛する」と宣言した御曹司が幽霊になって憑きまとってきます~
「紗智、俺が見えるの?」
「何言ってるの?」

「紗智、愛してる!」
 彼は勢いよく抱き着いて来た。

「やめてよ!」
 私はとっさにおなかをかばって彼の腕を逃れようとする。

 が、彼はするりと私を通り抜けた。

「え?」
 振り返ると、絶望を浮かべた彼がいた。

 よく見ると、彼は半分、透けて見えた。

「ええ?」
 私は声を上げた。

 彼は悲しそうな、恥ずかしそうな顔をしてそこに佇んでいる。何回見ても向こう側が透けていた。

「ええええええ!?」
 アパートの狭い玄関に、私の驚きが響き渡った。





 私は狭いダイニングで、テーブルにお茶を二つ置いた。
 向かい合って座った彼はゆのみを手に取ろうとして、なんどもスカッ、スカッと空振りしている。

 やがて、あきらめて手を引っ込めた。
「これ、どういうことなの?」
 私がたずねると、彼はしょんぼりと肩を縮めた。

「俺、死んで幽霊になっちゃったみたいで」
「幽霊……」
 非現実的な言葉に、私は顔をしかめた。

 嘘だ、と言いたいところだが、実際に目の前にいるのを見ると、否定できない。

「なんで?」
「事故だよ。ボール……」
 言いかけて、うつむく。

「ボールペンを落としてさ。拾おうとして、車に轢かれた。幽霊になって、俺の体が血まみれになるのを見た。もうダメだ、ってすぐにわかった」

 私は唖然とした。
 ドジなのは知っていた。知り合ったきっかけも彼のドジだ。だけど。
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