ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

「パイロット、弁護士に実業家か。名門伊集院家の婿殿にお誂え向きだな。だが、君は縁談を全て断ってきたと聞いているぞ」

「えぇ、婚約者候補に投資という名目でお金を渡し、私との結婚を諦めて頂きました。ドクターも私に伊集院が提示した同額、またはそれ以上の投資をさせてくれません？」

　これは非常にシンプルな戦術『THEお金で解決』だ。

　考案者はエミリー、伊集院が身内にしたい人物への投資リスクは低いだろうと着目。望まない婚姻関係を結ばなくてよくなり、WIN-WINの関係となれる。

「如何でしょう？　詳しい話を聞きたければ同行者から説明させます。私は婚約者としてのあなたを必要としませんが、医師のあなたは必要なのです」

　一旦、間を置く。私が提示する条件は悪くないはず。これまでの婚約者候補はみな快諾した。

「なるほど。実家に頼らないで、潤沢な資金はそうして調達しているのか。有能なビジネスパートナーを伴うあたり、箱入り娘ではなさそうだーーはは、面白い」

「面白い？」

　その挑戦的な含み笑いに胸騒ぎがする。

「俺は伊集院家に援助など求めないし、投資して貰わなくても結構ってことだよ」

　真田氏はおもむろにツインタワーを指差す。

「あのタワーくらい金を積まれても思い通りにならねぇ。俺はやりたいようにやるだけさ」

　本人は志の高さを表現したつもりでも、悪いが私には響かない。この人、何を語り始めたのだろう。

「……では質問を変えます。ドクターがやりたい事とは？」

「苦しむ患者を助ける事。それが医者の本質だ」

　格好いい台詞を言ってやった、したり顔をする。

「発言に整合性がないのですが……職務をまっとうしたいなら私を救って下さい」

「だ、か、ら、検査をしないと判断ができねぇんだって何回言わせる？」

「で、す、か、ら、私もその検査を早くして欲しいとお願いしてるんです！　いい加減、伝わりませんかね？」

　アクセントに悪意を感じ、真似てやった。