ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
二人はこの街の象徴であるツインタワーで結婚式を挙げた。
ベストセラー作家と俳優とのロマンチックな再婚はベリが丘の住人に夢を与え、今なお語られる。
「で、その伊集院桜が何か?」
「かなり」
「かなり?」
「可愛い」
「……」
何を言い出すかと思えば、これだ。
「先輩、女好きで身を滅ぼすよ? せっかく渡米しても女関係で訴訟されたら元も子もない」
先輩はアメリカの病院への移籍が決まっていた。端的に言えば出世コースに乗り、ベリカ大学病院へ戻ってくる時分には部長クラスとなっているはずだ。
まぁ、女性問題を起こさなければだが。
「お前こそ、口は災いの元だ。先輩を差し置いてファッション誌の表紙を飾りやがって! は? 抱かれたい俺様外科医って?」
「そ、それは医院長が病院の宣伝になるからと無理やり。俺だってあんな風に書かれると知っていたら取材を受けませんってば!」
持論であるものの、医師はどっしり構えるべき。不安や迷いは患者に伝わり、いいパフォーマンスとならない。
厳しい局面でも表情を崩さず、難しい症例であろうと最後まで諦めない姿勢を『俺様』と表現されるのは不本意だ。
不本意だが、俺の素養が誤認の起因になっているんだろう。学生時代から黙っていると恐れられ、喋ったら喋ったで幻滅されてきた。
「慎太郎はさ、ご両親も医者で開業してるじゃん? 継がないの? もう充分な経験を積んだじゃない? 辛い思いも苦しい思いも沢山した」
「兄がいるので、彼が継ぎます。自分で開業する予定は今のところありません」
「勤務医、辛くないか?」
「先輩こそ」
メインディッシュは肉料理でお互い無言でナイフを入れていく。
ベストセラー作家と俳優とのロマンチックな再婚はベリが丘の住人に夢を与え、今なお語られる。
「で、その伊集院桜が何か?」
「かなり」
「かなり?」
「可愛い」
「……」
何を言い出すかと思えば、これだ。
「先輩、女好きで身を滅ぼすよ? せっかく渡米しても女関係で訴訟されたら元も子もない」
先輩はアメリカの病院への移籍が決まっていた。端的に言えば出世コースに乗り、ベリカ大学病院へ戻ってくる時分には部長クラスとなっているはずだ。
まぁ、女性問題を起こさなければだが。
「お前こそ、口は災いの元だ。先輩を差し置いてファッション誌の表紙を飾りやがって! は? 抱かれたい俺様外科医って?」
「そ、それは医院長が病院の宣伝になるからと無理やり。俺だってあんな風に書かれると知っていたら取材を受けませんってば!」
持論であるものの、医師はどっしり構えるべき。不安や迷いは患者に伝わり、いいパフォーマンスとならない。
厳しい局面でも表情を崩さず、難しい症例であろうと最後まで諦めない姿勢を『俺様』と表現されるのは不本意だ。
不本意だが、俺の素養が誤認の起因になっているんだろう。学生時代から黙っていると恐れられ、喋ったら喋ったで幻滅されてきた。
「慎太郎はさ、ご両親も医者で開業してるじゃん? 継がないの? もう充分な経験を積んだじゃない? 辛い思いも苦しい思いも沢山した」
「兄がいるので、彼が継ぎます。自分で開業する予定は今のところありません」
「勤務医、辛くないか?」
「先輩こそ」
メインディッシュは肉料理でお互い無言でナイフを入れていく。