ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

3・絶望



 目を開けるとベッドへ寝かされていた。
 視界も思考も半分は夢の世界に取り残されているのに、手首の痛みだけはクリアだ。

「起きたのね、グッドモーニング」

 エミリーの声。

「ここは? 今何時?」

「ベリカ大学病院のVIP室で午後七時。グッドモーニングじゃなくイブニングね。挨拶、やり直そうかしら?」

「ううん、いい」

 明るく振る舞うエミリーから置かれた環境を察する。

「私、手首だけじゃなく他も悪いのかしら?」

「詳しい検査結果はまだ出てなくて、貧血を起こして倒れたって聞いてる。それより最高にクールな演奏をしたみたいね? お陰で電話が鳴りっぱなし」

 言葉とは裏腹、電源を落とした画面を見せていた。点滴の針に気を付けつつ身体を起こそうとすると、ノックが響く。

「たぶん、ドクターよ。三十分置きに桜の様子を見に来てる。はーい、どうぞ」

 私の了承なく白衣を着た真田氏が入ってきた。彼はすかさず起床を手伝い、手首の状態を確かめる。

「テーピングをしてみたが、きつくないか?」

「……大丈夫」

「痛むか?」

「えぇ、少し。でも平気」

 倒れる間際、彼に泣いて縋った記憶は消せない。いくら取り乱していたとはいえ、まるっきり子供だった。
 真田氏と目が合わせられない。

「ドクター、彼女は今夜はここで過ごす? それとも連れて帰っていい?」

「ホテルへ戻ったらマスコミに追われないか?」

「桜のパパが別荘を手配してくれたわ。実家は帰りたくないだろうって。ノースエリア内はパパラッチも取材が出来ないんでしょ?」
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