ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「テーピングをしてくれたお礼にひとつ、教えてあげる」

 布団から少しだけ顔を出す。

「ーーほぅ、いいね、是非ともご教示頂けますでしょうか?」

 真田氏はベッドの縁に腰掛け、足を組む。とても人に物を教わる態度とは思えない。けれど彼らしいとも思える。

「あなたは余計な一言を言わなければ、きっとモテるわ。端正な顔立ち、長い手足、それから高収入でしょ? ただレディーファーストは及第点ね、ふふっ」

 指摘している最中、うっかり吹き出してしまった。すると真田氏は目を丸くし、襟足を掻く。流石に怒らせたかと伺えばニカッと白い歯が覗いた。

「まいったな、尊敬する先輩医師にも口は災いの元って言われた事がある。だから初対面時は猫を被ったんだが、簡単に見破られたし……一体どうしたものやら」

 教えてくれませんか、桜先生。バリトンボイスで聞き返された。もちろん彼は困っていないし、どうしようもしていない。

 ひたすら真っ直ぐ私を見た。

「そ、そうね、口が悪いのは無理に直さなくてもいいんじゃないかしら? 仮にそれが理由であなたを避けたり嫌ったりする人がいても、個性を曲げてまで仲良くする必要はないと思う」

「あぁ、それで桜さんは毒舌キャラなのか!」

「はぁ? 今はドクターの話をしている」

「似てるんだよ」

「え?」

「あなたと俺は似ているよ」

 私はヴァイオリニスト、かたや真田氏は外科医。女と男、年齢も違う。それなのに似ているなんて。

「地位も財産もあるくせ、取り零した物ばかりを追ってしまう」
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