ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 季節の花々が咲き誇る中、やはり母はティーカップを傾けていた。義父も一緒におり、もう一人男性の姿がある。

「お帰りなさい。また随分な変装ね」

 私を見付け、母は少女みたいに笑う。

 再婚を機に俳優を引退したものの、何か企んでいる時は芝居がかる。嫌な予感がし、サングラスを外すと魂胆を探ってみた。

「ーーあなた、真田慎太郎?」

 面識はないが、その顔に見覚えがある。

「こら、目上の方を呼び捨てたらいけないよ。その様子だと真田先生を知っているみたいだな。話が早い、こちらへ来なさい」

「彼女のエスコートは俺がしましょう」

 義父が手招きしても動かないでいたら、真田氏は席を立つ。

 白衣でなくスーツを着た彼は雑誌で得た情報とかけ離れた印象、爽やかな大人とでもいおうか。口は悪いが腕は良い医師には映らない。
 恭しく差し出す手へ応えて重ねると、また痛みが生じる。

「申し訳ありません、痛みましたか?」

「ーーえ?」

「この程度の接触で……思った以上に状態は良くないか」

 痛みを顔に出したつもりはない。しかし真田氏は明確に察し、ふむと唸った。それから手を引いてのエスコートを取り止め、軽く腰に触れながら着席を促す。

「今日、真田先生にこちらへ来て頂いた理由は分かるわよね? 空港での騒ぎはニュースで観たわ。あのまま病院へ直行すれば、ご迷惑を掛けたでしょう」

「ベリカ大病院の医院長と伊集院さんはお知り合いなんですか?」

 母の小言を正面から浴びせられ、義父へ話題を流した。
 ちなみに私は義父を伊集院さんと呼ぶ。
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