ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 慎太郎との会話はテンポがいい。皮肉も軽やかに打ち返してくる。

「桜はこういう場所は苦手か?」

「別に。干渉されなければ構わない」

「つまり、接客されるのが好きじゃないんだな。服やアクセサリーはどうする? マネージャーが買ってくる?」

「服飾品はスポンサー契約してる。送られてくる物を使ってるだけ」

「ヴァイオリン以外は本当に無頓着なんだな」

 呆れというより感心に近い息を吐かれた。

「そんなにおかしい?」

 ワンピースの裾を少し持ち上げ、傾げてみる。
 先方よりトレンドのカラーで異素材を組み合わせた人気作と聞いているが、似合っていないのかもしれない。サングラスと帽子の件で懲りていた。

「……いいや、その上目遣い込みで可愛いよ」

「なら良かった」

「褒めても照れないんだ? 可愛いなんて言われ慣れてる?」

「キュートと言われて喜ぶのは小さなレディ。成熟した大人の女性にはビューティフルと伝えるべきよ」

 エスカレーターを降り、様々な食品の匂いが交じる空気を吸い込む。

「慎太郎、私、ベリカバーガーを食べてみたい。バンズがピンク色しているんでしょ? それからベリカソーダも。エミリーにSNSに載せられそうな物を食べるよう言われてて


「何だかんだ言って、しっかりチェックしてるじゃねぇか。注文してくるから先に席へ座ってろ」

「……ところで給仕係はいないの? ジャケットとバッグは誰に預けたら?」

 フードコートのシステムがいまいち理解できず、きょろきょろ見回す。と、視界の隅の慎太郎が肩を揺らした。また馬鹿にされると身構えるより早く、空いている席へエスコートする。

「ここで大人しく座って待ってろ。いいか? ナンパされても相手にするんじゃないぞ?」

 こんな所でナンパなんてされるはずがないじゃないか、そう思っていたのだけど。
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