ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「君、超可愛いね? 一人?」

 なんと慎太郎が席を外したのと入れ替わり、男性二人組はやってきた。

「もしかしてモデル? 可愛さが異次元だもん。なんていうかオーラがあるし」

 一人が正面、もう一人は隣へ腰掛ける。無論、面識のない他人だ。

「……」

 私は無反応を決め込む。

「てか無視っすか? クール! よく見ればハーフ? 日本語分からないとか? ミー達とエンジョイしませんか?」

「エンジョイ……」

 つい発音の悪さを訂正してしまう。言葉のリズム感はそこまで酷くないが。

「イエス! エンジョイ、エンジョイ! カラオケとか、なんならホテルへレッツゴー!」

 気安く肩を抱かれそうになり、捩る。私の素性に気が付いていないのはいいものの、馴れなれしくて鬱陶しい。

「いいじゃん、行こうよー!」

 次は手首に触れようとしてきたので立ち上がろうとする。

「俺の婚約者(フィアンセ)に何か用か?」


 ーーその時、大きな影がテーブルへ差し込んだ。
 私は慎太郎のフィアンセではないが、発音はとても良い。両手いっぱい食品を抱えた彼が現れ、二人組はそそくさ退散していく。

「日本も物騒になったものだ。おちおち料理を頼んでもいられないじゃないか」

「物騒なのは慎太郎よ。物凄い怖い顔しながらカラフルなハンバーガーを持ってるから、ふふっ、おかしい」

 アンバランスで笑ってしまう。

「その笑顔に免じて説教はやめてやろう。しかし、オシャレはさせるべきじゃねぇな。マネージャーにジャージメーカーと契約して貰え」

「ジャージ? 私、スポーツ選手じゃなくヴァイオリニストなんだけど?」

「ジャージでヴァイオリン弾いてもいいだろ。大事なのは音色だ」

 この人は時々、演奏に対して鋭い事を言う。そう大事なのは音色なのだ。奏者は楽器の一部である。

 しかし悲しいかな、情報はどうしたってヴィジュアルが先行し、視覚で得たものが記憶として残りやすい。
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