ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 このベリカバーガーやソーダもピンク色しているからこそ人々の注目を集め、手に取る切っ掛けとなる。
 私が母譲りの容姿を利用するのも同じ事。
 
「よし、食う前に写真撮るか?」

「えぇーーあなたも映る気?」

 慎太郎が隣に座り、インカメラで前髪と表情を調整した。

「執刀医とランチってハッシュタグつければいい」

「……そんなタグ、誰が使いたがるのよ?」

「あはは、確かに誰も使わねぇな」

 シャッターは連写され、二人で段々と笑顔になる過程が記録されていく。



 腹ごしらえを済ませ、アミューズメント施設へ。クレーンゲームの前で足を止める。四方から様々な音楽が聞こえる中、馴染みのあるメロディーがここからしたから。

「ん? ぬいぐるみが欲しいのか?」

「チャルダッシュ」

「はい?」

「チャルダッシュが聞こえた」

 大音量に囲まれて声が通りにくい。自然と距離が近くなる。

「せっかくだし、やってみるぞ。どれが欲しい?」

 正直どれも欲しくなかったが、得意気に言ってくる彼に適当な犬を指差す。ベリカ犬という御当地キャラらしい。

「取れたら病室に飾ろうな」

「そういう事は取れてから言ったら? 第一、まだ入院するか決めてない」

 一回目のチャレンジが掠りもしなかったことを鑑み、長い戦いとなりそうな予感がする。言わずもがな、慎太郎は負けず嫌い。私の徴発で闘志に火がつき、前のめりになる。

 私としては延々とチャルダッシュを聞くのもやぶさかでないが、放っておいたらお金がどんどん溶けていく。

「私、横から見てる。人形の上にアームが来たら教えるよ」

「おう! 頼む! ミッションの成功の鍵は俺達の連携に掛かってるぞ」

 ちなみに彼はベリカ大学病院でスーパードクターと名高い。そんな人物がぬいぐるみ一つで目をぎらつかせ、必死になるなんて。
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