ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる

5・キス



 その後はサウスパークへやって来て、潮風を浴びている。

 公園の面積は広く、森林に囲まれたエリアと海岸に隣接したエリアがあり、後者はミュージシャンなどパフォマーの姿が多い。

 潮風は楽器にとってよくないものの、遮るものが少ない環境は音色がダイレクトに届く。

 森林エリアの動物達の演奏も魅力的だが、路上ライブもなかなかいい。耳を澄ませ、目を閉じた。膝の上にベリカ犬を置いて。

「検査結果を待つ間に確かめておきたい事があるんだが?」

「なに?」

「ここ数年のスケジュールだ。マネージャーに頼んで出して貰えないか? それとも桜が管理している?」

「スケジュール調整はエミリーに全て任せていて」

「彼女が入れるまま仕事をしていたと?」

「その言い方は語弊があるわ。仕事をコンスタントに獲得するって難しいのよ? 病院みたいに看板を出せば患者が集まってくる訳じゃない」

 ここで目を開け、慎太郎を窺う。

「あなた、エミリーが嫌い?」

 ストレートに尋ねた。

「嫌いというより価値観が合わない感じ、だな。少なくとも俺には桜が働き過ぎに思える。仕事の基本は体力、休む時はしっかり休まないと」

「エミリーも同じような事を言ってた。仕事が出来る人間とは休暇を楽しめる人間でもあるって」

「ほぅ、そこは同意見だな」

「慎太郎は代休中なのに仕事の話をしてるよ?」

「はは、参ったな。担当患者の為に休日を捧げる医者の鑑みたいな俺に、そういう意地悪を言うなんて」

 苦笑いする慎太郎。落ち込む真似する彼をベリカ犬を介して慰める。

「タダ働きさせるのは申し訳ないから、一曲リクエストをどうぞ」

「ま、まさか、ここで弾くつもりじゃないだろうな!」

「えぇ、そのまさかよ。あそこで弾いている彼女に借りようと思って」
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