ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
「桜さんはご自分を治せる可能性がある医師にコンタクトを取ってますよね?」

「えぇ、それが何か?」

「腕を痛めているのを秘密にしたいのであれば多くと関わるのは愚策、いつ何処で情報が漏れるか分かりませんよ。その点、俺と形だけでもいいので婚約すれば、治療や通院がしやすくなる」

「形だけって……冗談を言ってるんですか?」

「俺は求婚者である前に医師。交換条件を出して治療するなど姑息な真似はしないです。目の前に患者が居れば助けるだけだ」

 淡々と語る様子に戸惑う。まるでゲームの裏技でも教える口振りだ。

「と言っても、検査検結果を診てからじゃないと。治す、治せないの話はそれからしましょうか。ところで明日のご予定は?」

「特に無いですが」

「ベリが丘をご案内します。こちらに戻られたのは久し振りと伺いました。俺も明日は非番でして」

 当然、非番なら病院へ行かない。検査もしない。一緒に出掛けようと誘われても親交を深めたい訳じゃないし、気が乗らなかった。

「お気持ちは嬉しいのですが。長旅で疲れてしまい、明日はゆっくり身体を休めたいので遠慮しておきます。検査の日程等が決まりましたらここに連絡下さい」

 名刺の裏に個人用の携帯番号を記入。数字を書いても手が痛み、若干震えてしまう。

「それでは失礼します」

 一礼し、その場から立ち去った。
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