ミューズな彼女は俺様医師に甘く奏でられる
 下手な慰めはしない、希望的観測も無用。エミリーは合理的に物事を判断したうえで条件を提示した。

「まず真田ドクターを担当医師から外す、これはマスト。代わりにアメリカから医師を手配した。真田ドクターの先輩で教授候補だって」

「私は慎太郎に手術をーー」

 反論を挟みたくても、睨まれて言えない。

「次にドラマ出演! 役柄はちょっとセクシーでベッドシーンもあるんだけど、桜なら演じられると信じてる。相手役は今売り出し中の俳優でとってもセクシーなの。どうせなら、こういう旬な人と浮気名を流して欲しいわね」

「エミリー、私はヴァイオリンを弾きたい。俳優業なんてやれないよ、やりたくない。母と比べられるだけ」

「あら、桜のママと比較させるのが目的よ。話題性たっぷりじゃない? ドラマの視聴率が良ければ新しいスポンサーが集まってコンサートが出来る! ね、WIN-WINでしょ?」

 大まかな方針を告げ、さっそく準備に取り掛かるエミリー。彼女から携帯電話を取り上げた。

「ちょっと何するのよ?」

「勝手に動かないで、私はまだ了承してないから」

「ベリカ大学病院、真田慎太郎医師を訴えてもいいのよ? あなたという商品がどれだけ価値を損ねたか分かる?」

「裁判なんてやらせない! 慎太郎との交際を公にするわ。私は慎太郎に手術を任せたい、それでファン離れが起きても仕方がない。小さなライブ会場から活動をやり直す!」

「甘ったれた事、言わないで。どうせ立ち行かなくなればドクターと結婚するんでしょ? あれだけママを嫌いながら行き着く先は一緒なんて、流石は親子」

「母と一緒にしないでくれる?」

 エミリーとはビジネスパートナー。利害が一致するから共にあり、厳しい事も言うし言われる。

 彼女が書いたシナリオは副業ベースの活動がメインとなり、それがゆくゆく本業へ繋がっていくとしても待てそうもない。
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